公正取引委員会/軽油カルテルで発動、行政処分ではない「検事総長への告発」とは?

2026年04月20日 08:08 / 経営

公正取引委員会は4月17日、独占禁止法に違反する犯罪があったと思料して、東日本宇佐美(東京都文京区)、ENEOSウイング(名古屋市中区)、エネクスフリート(大阪市淀川区)、キタセキ(宮城県岩沼市)、共栄石油(東京都江戸川区)の5社を検事総長に告発した。軽油カルテルでの告発として初めての事例となる。

独占禁止法に違反した事件においては、通常、「警告」「排除措置命令」「課徴金納付命令」といった行政処分が下されるが、今回の事案は異なる処分が下された。普段、聞きなれない「検事総長への告発」とは何か?公正取引委員会が公開している資料から読み解く。

<独占禁止法違反事件の処理手続図>
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出典:公正取引委員会発表資料(以下、同じ)

簡単に言うと「検事総長への告発」とは、「犯則調査により犯則の心証を得た」ということを意味する。つまり犯則調査を行った結果、悪質な違反の事実が確信できたということである。

この「犯則調査」とは、公正取引委員会や国税局などの行政機関が行うもの。価格カルテルや入札談合などの違反行為で、国民生活に与える影響が広範で悪質かつ重大な事案、行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案が対象になる。

公取委は、これらの事案に対して積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針としている。つまり、犯則調査の対象となったということは、最終的に懲役や罰金などの刑事処分に相当する理由のある独占禁止法違反被疑事件ということを意味している。

独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることにある。市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は、自らの創意工夫によって、より安くて優れた商品を提供して売上高を伸ばそうとする。また、消費者は、ニーズに合った商品を選択することができ、事業者間の競争によって、消費者の利益が確保される。

このような考え方に基づいて競争を維持・促進する政策は「競争政策」と呼ばれる。また、独占禁止法の補完法として、中小受託事業者に対する委託事業者の不当な取扱いを規制する「中小受託取引適正化法(取適法)」がある。

公正取引委員会では、違反行為をした者に対して、その違反行為を除くために必要な措置を命じる。これを「排除措置命令」と呼んでいる。私的独占、カルテル及び一定の不公正な取引方法については、違反事業者に対して、「課徴金」が課される。

さらに、カルテル、私的独占、不公正な取引方法を行った企業に対して、被害者は損害賠償の請求ができる。この場合、企業は故意・過失の有無を問わず責任を免れることができない(無過失損害賠償責任)。カルテル、私的独占などを行った企業や業界団体の役員に対しては、罰則が定められている。

<犯則調査の流れ>
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一方で、独占禁止法違反被疑事件のうち、犯則事件(独占禁止法第89条、法第90条及び法第91条の罪に係る事件)を調査するため必要があるときには、裁判官の発する許可状により、臨検、捜索又は差押えを行うことができる。これは「犯則調査権限」と呼ばれる。

公正取引委員会には、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する価格カルテル、供給量制限カルテル、市場分割協定、入札談合、共同ボイコット、私的独占その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案」「違反を反復して行っている事業者・業界、排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち、公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案」について、積極的に刑事処分を求めて告発を行う方針がある。

これらの事案に該当すると疑うに足りる相当の理由のある独占禁止法違反被疑事件は、犯則調査の対象となり、「犯則調査権限」が発動される。具体的には、犯則事件を調査するため必要があるときは、裁判官の発する許可状により、臨検、捜索又は差押えを行うことができる(独占禁止法第102条第1項・第2項)。また、犯則調査により犯則の心証を得たときは、検事総長に告発を行う。

告発に当たっては、その円滑・適正を期するため、検察当局との間で、検察当局側が最高検察庁財政経済係検事以下の検事、公正取引委員会側が犯則審査部長以下の担当官で構成される「告発問題協議会」を開催し、該当する個別事件に係る具体的問題点等について意見・情報の交換を行っている。

このように犯則事件は、「公正取引委員会の行う行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案」について、司法の場で刑事責任を追及するのが特徴の一つとなっている。

独占禁止法2条では、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為を「不当な取引制限」と規定している。「不当な取引制限」が認められた場合、行為者のほか、行為を行った法人又は人に対して、5億円以下の罰金刑を科すことができる(独占禁止法第95条)。

なお、今後、課徴金納付命令など、公正取引委員会として行政処分の対象にするのかについて、犯則審査部の山口正行第一特別審査長は「行政上の措置を取るかどうかも含めて、今後、行政調査部、委員会が判断することになる。現時点では、見通しは申し上げられない」とした。

「検事総長への告発」事案は、2023年2月28日の「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が発注する東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関するテストイベント計画立案等業務委託契約等の入札談合に係る告発」以来、約3年ぶりとなる。

東京オリンピックの談合事件では、2023年2月28日に談合に関わった6社に対して「検事総長への告発」を実施。2025年6月23日に、入札参加等業者(8社)に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。また、2025年1月30日に、電通グループに対し、東京地方裁判所において罰金の刑(3億円)に処する判決があった。

2026年3月11日に、判決を受け、公正取引委員会は独占禁止法第63条1項(課徴金の納付命令後における罰金と課徴金の調整)の規定に基づき、、電通グループに対する課徴金納付命令に係る課徴金額を、裁判において命じられた罰金額の2分の1に相当する金額(1億5000万円)を控除した額に変更する決定を行った。そのため、課徴金4億9556万円から1億5000万円を減額し、3億4556万円の課徴金を課した。

■独占禁止法の概要
https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/gaiyo.html

■犯則調査権限
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/hansoku.html

■独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針
https://www.jftc.go.jp/dk/seido/hansoku.html

公正取引委員会/東日本宇佐美など軽油販売業者5社を「価格カルテル」で検事総長に告発

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