
ビジネスからレジャーまで多くのユーザーに幅広いシーンで使われているトヨタ「ハイエース/レジアスエース」。それだけに本来求められる乗り心地は様々なのだが、これまでは調整不能「商用車なのだから」と妥協を強いられるユーザーも少なくなかった。そこでカヤバが2026年1月に新たに発売したのが、スマホで乗り心地を操作できる電子制御サスペンション「ActRide(アクトライド)」だ。簡単に減衰力調整ができるので、空荷時と積載時でセッティングを変えることも可能だという。そこで実際に試乗して、その実力を確認してみた。(モータージャーナリスト 山城利公)
■「我慢する足」への問いかけ
商用車の乗り心地は、長らく「我慢するもの」として扱われてきた。段差で跳ねるのは当たり前で、荷を積めば安定し、空荷では落ち着かない。そうした特性は“そういうもの”として受け入れられ、ドライバー自身が適応することで成立してきた側面がある。
しかし、その“適応”は決して無償ではない。細かな突き上げや揺れは、一つひとつは小さくとも、それが積み重なれば確実に疲労となる。とくに都市部の配送では、細かな段差や舗装の継ぎ目、頻繁な停止と発進が繰り返される。そうした環境においては、足まわりの質がそのまま労働環境の質に直結する。
さらにいえば、その負担はドライバー個人の問題にとどまらない。疲労の蓄積は判断力の低下や操作の遅れにつながり、結果として安全性にも影響を及ぼす。商用車の足まわりは単なる快適装備ではなく、本来は安全マネジメントの一部として捉えるべき領域にある。
カヤバ(KYB)が投入した「ActRide」は、まさにこの前提に対する再定義といえる。後付けで成立するセミアクティブサスペンションという形を取りながら、車両の挙動そのものを制御し、“我慢しない足”を現実の選択肢として提示してきた。
<カヤバ「ActRide」。ショックアブソーバ、コントローラ、スマホアプリで構成される>

■走り出してすぐに感じる“違和感”
「ActRide」を装着したハイエースに乗り込み、走り出した瞬間に感じたのは、“違和感”だった。それはネガティブなものではなく、これまで慣れてきた商用車の感覚とのズレに対するものだ。
アクセルを踏み、車両が動き出した直後から、路面の情報の伝わり方が違う。凹凸に対する反応が、これまでよりも一段整っている。通常であれば、入力に対して車体のどこかに遅れやばらつきが生じ、それが不要な揺れとして残る。しかしActRide装着車では、そのズレが抑えられ、入力から収束までが一連の動きとしてつながっている。
この差は小さいようで大きい。不要な動きが減ることで、ドライバー自身に伝わる情報が整理され、結果として運転に対する負担が軽くなる。
試乗コースに設けられた段差では、その差がより明確になる。一般的な車両では、段差通過時に鋭い入力が入り、その後に上下動が尾を引く。いわば“衝撃”と“揺れ”が分離している状態である。
しかしActRideでは、最初の入力に嫌みのないわかりやすさがあり、その後の収まりも早い。完全に衝撃を消しているわけではないが、不快なピークだけが取り除かれている印象を受ける。
<試乗コースに設置された段差。乗り越えた際の衝撃は小さく、収まりも早い>

うねり区間では、さらに特徴が際立つ。連続した入力に対して車体が過剰に反応せず、上下動が増幅されない。ドライバーは無意識に行っていた修正操作を減らすことができる。この“修正操作の減少”は重要だ。運転とは、車体の動きに対する微調整の連続である。その回数が減るということは、集中力の消耗を抑え、疲労の質を変えることにつながる。
■セッティング変更で見える設計思想
同乗した開発者によって、リアルタイムでセッティング変更が行われた。フルソフト寄りの状態から、乗り心地やハンドリングを強めた設定まで、複数のパターンを試すことができた。
<同乗者がいれば、スマホの操作でセッティングを瞬時に変えることができる>

ここで印象的だったのは、どの設定でも挙動に“破綻”が見られないことだ。一般的な調整式サスペンションでは、設定を大きく振るとどこかに無理が出る。しかしActRideでは、キャラクターが変わっても基本的な安定感は維持されている。
これは制御の範囲そのものが設計されていることを意味する。極端な設定であっても、破綻する領域には入らない。つまりユーザーは安心して調整できる。
さらに重要なのは、その変化が“理解できる”ことだ。どの設定がどのような挙動につながるのかが感覚的に把握できるため、使いこなしへのハードルが必要以上に高くならない。この点は実用面で見逃せない。
■フラット感と追従性の“現実解”
サスペンションにおいて、フラット感と路面追従性は本来相反する要素である。上下動を抑えれば路面追従性は失われ、追従性を優先すれば車体は落ち着きを欠く。
ActRideは、その間に現実的な解を見出している。入力はしっかりと受け止めるが、余計な動きには発展させない。揺れはあるが、収まりが早い。
この状態は、ドライバーにとって非常に扱いやすい。挙動が読みやすく、過剰な修正操作が不要になる。結果として運転のストレスが減り、長時間の走行(移動)でも疲労の蓄積が抑えられる。
オートモードによる制御は、あくまで裏方に徹している。ドライバーが意識する場面は少ないが、その効果は確実に現れている。
とくに注目すべきは、入力後の収束の速さだ。段差通過後や連続入力時でも、車体の不要な動きが長引かない。これは制御の応答性が高いことを示している。
その背景には、ソレノイドバルブによる減衰力制御の恩恵があると考えられる。入力に対して遅れず、かつ過剰にもならない制御が成立しているからこそ、この自然な収束が実現できている。
<減衰力の制御はショックアブソーバのソレノイドバルブ(写真中央下部)で行なわれる>

この“後に残らない動き”は、疲労低減において非常に重要だ。揺れが長引けば、それだけ身体は無意識に力を使うことになる。その負担を減らすことができる点に、この制御の価値がある。
■ハンドリングに現れる変化
スラローム走行では、ハンドリングの違いが明確に現れた。左右に荷重が移動する中でも、車体の動きが整理されており、ステアリング操作に対する応答がとても素直だ。
<スラローム走行もスムーズ。リアを振られるようなこともない>

セッティングによってキャラクターを変えれば、当然ながら動きの量そのものは変化する。だが重要なのは、その変化が破綻につながらず、常に一定の範囲に収まっている点である。
ロールの立ち上がりと戻りが揃っているため、挙動に違和感がない。これにより、ドライバーは車両の動きを予測しやすくなる。
結果として、操作に対する信頼性が高まり、運転そのものが楽になる。この“楽さ”は単なる快適性ではなく、安全性にもつながる要素である。
■使いこなしという現実的な課題
一方で、このシステムには明確な前提もある。設定の自由度が高いということは、使い方次第でその価値を引き出せる余地が大きいということでもある。
最適なセッティングを見つけるにはある程度の試行が必要になるが、その過程自体がこの製品の魅力ともいえる。業務では積載やルートに応じて最適化し、安定性や疲労低減に寄与する。一方でプライベートでは、走りや乗り心地を自分の好みに合わせて調整する楽しさがある。
<好みに合わせて自在なセッティングが可能だ>

ドライバーごとの好みや使い方に応じてセッティングを選べるという点は、従来の商用車にはなかった価値だ。運用面での整理は必要になるものの、それを含めて“使いこなす余地”があること自体が、このシステムの特徴といえる。
つまりActRideは、導入すればすべてが解決する“魔法の装置”ではない。あくまで使いこなすことで価値が最大化される製品である。
しかし、この特性は同時に大きな可能性でもある。商用車は、積載量や走行環境が常に変化する乗り物である。従来はそれらを一つの特性で対応するしかなかった。
ActRideは、その前提を変える。状況に応じて最適な状態を選ぶことができる。これは単なる快適性の向上ではなく、運行全体の質を変える可能性を持つということだ。
例えば、配送ルートに応じたセッティングや、時間帯による最適化など、運用面での応用も考えられる。サスペンションが“固定されたもの”から“調整可能なもの”へと変わる意味は大きい。
今回の試乗が、空荷状態だったことも重要なポイントだ。商用車は積載時だけでなく、空荷で走行する時間もある。そして空荷の時こそ、挙動の不安定さが顕在化しやすい。
その状態でも車体が落ち着いていることは、日常の運用において大きな安心感につながる。積載時だけでなく、あらゆる状態で質を底上げできるという点で、このシステムの意義は大きい。
■非日常での価値?“移動時間”の質を変える
今回の試乗には、キャンピング仕様のハイエースも展示されていた。ここで見えてきたのは、ActRideが“仕事の足”にとどまらない可能性である。
長距離移動において、乗員の身体的負担が軽減されることは、そのまま移動時間の質の向上につながる。とくに同乗者にとっては、揺れの質の違いが快適性として明確に伝わる。
つまりActRideは、単に業務効率を高める装備ではなく、移動そのものの価値を底上げする技術ともいえる。
<キャンピングカー仕様のハイエースに装着。ビジネスからレジャーまで活用幅が広がる>

ActRideの価値は、瞬間的なインパクトではない。むしろ日々の運転の中で少しずつ効いてくる。
一回一回の違いは小さくても、それが積み重なれば大きな差になる。とくに長時間運転では、その差は明確に表れるはずだ。
この“見えにくい価値”に対して、技術でアプローチしている点こそが、この製品の本質といえる。
ここで重要なのは、この変化が「ドライバー自身の努力」に依存しない点である。これまでの商用車は、運転の工夫や慣れによって不快な挙動をいなすことが求められてきた。しかしActRideは、その前提を機械側で引き受ける。
つまり、負担を“人が吸収する”のではなく、“車両側で整える”という発想への転換である。この違いは小さく見えて、本質的には非常に大きい。
■現場で使われたときの変化
もう一つ考えておきたいのは、このシステムが実際の現場に導入されたときに起こる変化だ。
例えば、同じ車両を複数のドライバーが使う場合でも、従来であれば「この車はこういうクセがある」と理解して乗る必要があった。しかしActRideなら、スマホ操作一つでその“クセ”自体を調整することができる。
これは教育の観点でも意味を持つ。経験の浅いドライバーほど、車両の挙動に影響されやすいが、その差を縮めることができる可能性がある。
また、ドライバーごとの疲労度のバラつきを抑えるという点でも効果が期待できる。これは表に出にくいが、運用全体の安定性に関わる重要な要素だ。
後付け装置である以上、導入コストは避けて通れない問題だ。しかしここで考えるべきは、単純な価格ではなく“何に対しての投資か”という点である。
ActRideがもたらすのは、乗り心地の向上だけではない。疲労低減、安全性向上、運転ストレスの軽減といった、複合的な価値だ。
これらは数値化しにくいが、確実に業務に影響する要素である。とくに人材不足が深刻化する中で、ドライバーの負担を軽減できる装備は、単なる快適装備ではなく“環境投資”としての意味を持つ。
■今後の広がり
現時点ではハイエース向けだが、このコンセプト自体はより広い領域に適用可能だろう。
とくに小型トラックやルート配送車など、日常的に細かな入力を受け続ける車両においては、その効果はより明確に現れるはずだ。
さらに視点を広げれば、これは単なるサスペンション技術にとどまらない。車両の状態を検知し、リアルタイムで最適化するという考え方は、今後の商用車全体の進化にもつながっていく可能性がある。
ActRideは、乗り心地を変える装置ではない。挙動の整え方を変える装置である。
柔らかくするでも、硬くするでもない。その中間にある“整える”という領域に踏み込んだ点に、この製品の価値がある。
商用車の足まわりは、“慣れるもの”から“選ぶもの”へ。そしてその選択は、単なる好みではなく、働き方そのものに関わる要素へと変わりつつある。
派手さはない。だが確実に効いている。その変化は、運転中ではなく、一日の終わりにこそ実感されるものかもしれない。
“仕事の足”は、すでに進化しはじめている。問題は、それをどう使いこなすかだ。
■KYB ActRide公式サイト
https://www.kyb.co.jp/kybclub/products/street/actride/index.html
【取材・文:山城利公(やましろ・としまさ)】
1963年・東京生まれ、モータージャーナリスト/プロドライバー
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
幹線輸送トレーラのドライバーとして200万km(約20年・地球50周以上)におよぶ無事故運行の実績を持ち、商用車技術と物流業界に精通。実体験と現場視点をもとに、クルマ社会の「今」と「未来」を発信するとともに、商用車関連の技術評価や実証プロジェクトにも関与している。
大型けん引免許(ダブル連結トラックSF25技能講習修了)/自動車整備士(国家資格)/整備管理者(選任資格)/国内競技運転者許可証A級(JAF公認)/JAF公認審判員ライセンス(コースA2/技術A2)/フォークリフト運転技能講習修了
トラック最前線/物流課題解決に向けた日本トレクスの取り組み トラックからのステップアップを支援する 「トレクスドライビングスクール」を体験(後編)