トラック最前線/中国運輸局・田中課長が語る「トラック・物流Gメン」番外編『中国運輸局への異動秘話』
2026年06月19日 09:30 / 経営
中国運輸局・田中幸久課長が語る「トラック・物流Gメン」番外編では、本省から中国運輸局へ赴任した経緯、中国運輸局での思い出深いエピソードなどを聞いた。現場での挑戦、人の縁に支えられた3年間、そして今後について語ってもらった。
※インタビューは3月11日に実施、田中氏は4月1日付で、茨城運輸支局長に就任している。(本文末の略歴参照)
■自分がこれまで培ってきたものが、現場で役に立つのかを試したかった
――中国運輸局に行かれたのは、いつからですか?
田中 2023年4月です。ですから、中国運輸局に赴任したのは、トラックGメン制度が創設される前でした。当然、着任当時は、自分がトラックGメンになるなど思いもしませんでした。
ただ、すでに2024年問題は世の中で認識されていて、初仕事は経済団体への中国運輸局、中国経済産業局、広島労働局による局長合同要請の段取りやマスコミ対応でした。さらに6月には政策パッケージがまとめられ、翌月の7月にはトラックGメン制度が立ち上がったという感じですね。
――なぜ本省から、地方運輸局に行かれたのですか?
田中 前職である独立行政法人への出向中に、人事から次の異動先として「地方運輸局はどうか?」という打診があったからです。
その時、人事の担当は僕の同期で、僕がこういうのを断らないというか、面白がってやる性格だということを知ってか「こういう話があるよ。断ってもいいけど、どうする?」と言ってきました。
それまでの勤務地は霞が関など東京都内が多く、地方運輸局での勤務経験はありませんでした。職務経歴も、予算・経理やシステム関係が多かったので、まず「なんで自分が?」と思いました。
ただ当時、自分の年齢で地方運輸局に異動するというのも珍しいので、まんまと興味を惹かれ、家族に許可を得る前に「あっ、面白そうだね、行くわ」と返事をしていました。特に物流に対する問題意識が強く、志願して現場に行ったというわけではないんです。
――物流に対する問題意識が強かったわけではないのは意外ですね。
田中 そうですね、トラックの許認可業務の経験もなく、トラック事業者と直接話をする機会もほとんどなかったですし。リアルな現場の課題は把握しきれていなかったと思います。
それまでの仕事では、行政関係のシステム構築の予算の積算や執行にあたっての計算、バス・タクシー向け補助金の予算編成、公募時における事業計画の確認、アドバイスに関する仕事を通じて物事の仕組みや民間企業の事業内容などを勉強させていただく機会を多くいただきました。
その中で、予算制度やシステムという全国の現場に影響を与える仕事をしているのに現場の現実を見ていない、「これで本当に役に立つ仕事ができているのか?」という問題意識を持っていました。当然、現場の情報を知るために、運輸局の関係者に相談したり、訪ねたりして助けていただいていたのですが、やはり自分で見ていないので、現場の要望がちゃんと形にできているかは不安でした。
打診を受けた時には、現場に行って現実を見てみたい。自分がこれまで約30年、本省で培った経験や知識、やり方、働き方は、運輸局の職員と仕事をした時に、どう見られるのか、現場で役に立つのか、通用するのか。また、運輸局はこういうアプローチ、情報の発信をしたらもっと世の中から評価されるのではないか、そういったものも試したいという思いをちょうど持っていたところでしたので、すごく興味を引かれました。
――人事異動で現場に挑戦する機会を作られたのですね。
田中 はい。一方で、私は大学を出てから役所に入ったわけではないのですが、入省以来、業務を通じていろんな経験・知識を身に着けさせていただき、それを本省で活用する機会をいただきました。本当に霞が関に育てていただいたようなものですね。
なので、40代後半あたりから、これから先はいただいたものを次の世代につないだりして世の中に返していく「ご恩返し」「御礼奉公」だなと感じていました。
異動先は自分のスキルや経験を理解していただいて、考えていただいていると思っていたので、自分の中にある何がここで活きるのかを考え、行かせるスキルを最大限発揮して全力でやる。若い職員に相談してもらえたら、一緒に考え一緒にやる。汗は我々上の世代がかき、成果はその職員のものとして大きく評価する。これが仕事のスタンスになっていました。
人事の希望を聞かれても、「どこでも可」と回答していたと思いますので、自分の知見が地方運輸局でどう活かせるか、霞が関でいただいたものを現場にどうお返しできるか。そういう意味でも地方運輸局への異動の打診はとても興味深い話だと思いました。
物流に関しては、許認可業務の経験はなく、実態も目の当たりにしたことはありませんでした。ただ、安全対策や監査、トラック事業者向けの低公害車両導入など事業支援の補助金予算、モーダルシフト補助金予算などの確保・執行などの業務を通じて関わった経験はありましたので、全く知らなかったわけではありません。
しかし現場に来て、実際を見て、当事者の話を聞いて、物流が経済に密接に関わる興味深い分野であることを実感し、とても熱意が沸き、その後の活動につながったと思います。
――中国運輸局に配属された理由を聞いてもいいですか?
田中 先に述べた人事からの打診というのが、中国運輸局からの要望がもとになっていたと聞きました。特に、田中だからというものではなかったと思います。
異動先の部署は本局のトラック担当課長ということでした。トラックの許認可事務の経験はなく、現場経験のある運輸局の方がふさわしいのではとも思いましたが、現場に行って、見たかったものが見られるというワクワクした思いが強かったです。
知り合いもいない未知の職場と思い込み、中国運輸局の皆さんとも仲良くなれるだろうか、仕事の仕方で反感を買わないだろうかなど不安もありました。でも実際来てみると、本省で働いていた時にやり取りをしていた方や、過去に中国運輸局から本省に出向されていて、私と交流があった方などがいて、色々助けていただきました。
恥ずかしい話、許認可業務についてはほとんど知見がなく、ほぼ課の皆さんにお任せだったのですが、皆さん優秀で、しっかりと業務に対応してくれました。また、トラックGメン創設後は、先にもお話ししたとおり、自分のスタイルを理解してくれて、しっかりついてきてくれました。
■「トラック・物流Gメンが天皇陛下に御接見」そこにも中国運輸局ならではの逸話が
――中国運輸局管内での印象的な出来事を教えてください。
田中 中国管内のトラック事業者、倉庫業者の皆さんとの距離感が変わったことですね。最初は総会に行っても遠巻きに距離を置かれていたように感じていました。でも、Gメン活動を続けるうちに、声をかけられるようになり、個別に相談をされ、研修の機会に呼ばれて話をしてくれと言われるようになりました。
「毎月のオンライン説明会をよく見ている」「参考にしている」と言ってくれる方も出てきましたし、総会などに行くとロビーで話が盛り上がり、来賓用控室に来ない?と、係りの方に探しに来られるまでになりました。役人でなかなか褒められるという経験はありませんでしたが、活動を評価いただいた、さらに今後について一緒に前向きな議論ができるようになった。これは嬉しかったです。
荷主の皆さんも、我々の活動に大変理解があり、忌憚なく意見交換させていただきました。是正指導先でなくても、ご厚意で現場を色々見せていただき、物流の実際を勉強させていただきました。「むやみに我々を取り締まる存在じゃないんだ」「相談しても良い相手だとは思わなかった」「情報や意見が交換できてありがたい」そういってくださる荷主企業もあり、皆さん「商売」というフィールドで一生懸命努力されているのだということを気づかされました。
3年間、現場やオンラインで様々な荷主、物流事業者から、好事例になる取り組みや、普段対面では交わせない両者の本音・思いを聞かせていただき、Gメン業務を通じてつないできました。いま、こうして色々な場所で説明する機会をいただけているのも、そうした経験をさせていただいたおかげだと感じています。
――運輸局内で、印象に残った活動は何でしたか。
田中 運輸局内で一番感動したのは、オンライン説明会でのエピソードになります。説明会はほぼ私の独断で始め、ずっと私個人の仕事のような形だったのですが、2024年1月に発生した能登半島地震の災害応援で私が2週間、石川県の広域防災拠点に派遣された際、その留守をしっかりと守り、当時の専門官、係長が途切れさせることなく、配信を担当してくれたんです。
能登半島地震の派遣は、現地の状況が分からない状態だったので、現場への適応力と対外自治体や他省庁との調整も必要だろうし、若い職員を行かせるのは負担が大きいと思いました。また災害対応経験があり、ある程度の役職についている者で、面の皮が厚い人間がふさわしいし、私は本省からのサポートでしたが、東日本、熊本と災害対応を経験していたので志願しました。
一方、当時のオンライン説明会はゲストはおらず、約2時間ホストがしゃべりっぱなしの形態だったので、さすがに不在中、部下にそれを託すのは荷が重いだろう、中止はやむなしだなと思い「派遣中はお休みにして良いよ」と話しました。それに対して2人からは「大丈夫です。我々でやります」という返事が返ってきたんです。
説明資料の準備のほか、せっかく災害の現場に派遣されるのだからと、現地レポートの動画を派遣先の宿舎(金沢駅近くの宿は取れず、ドミトリータイプの宿に長逗留しました。)で作業のうえ用意しましたが、それでも1時間半以上は話さなければいけない、それも生放送で。きっと負担もあったろうと思いますが、2人ともしっかり説明してくれました。
2人ともこれまでの私の説明資料や動画を見直して読みコメントなども用意のうえ臨んでくれたそうです。後でそれを聞いて、胸が熱くなったのを覚えています。
――周りからの協力を得られる関係を構築されたのは素晴らしいですね。
田中 そのほか、我々の活動を広島から全国へ絶えず発信いただいた「物流ニッポン」の地元記者2名にも助けていただき、また色々教えていただきました。広島での密着取材とその模様を記したリアルな記事が、トラック・物流Gメンを世の中に知っていただくきっかけになったと思います。
荷主等パトロール、オンライン説明会が中国運輸局で軌道に乗り、同じ貨物課の専門官と毎月福岡や四国、大阪、東京に出向き、現地の地方運輸局Gメンと一緒に行動しましたが、そこから活動が広がっていきました。他の地方運輸局でも、そうやって全国にできた「仲間」からも力をいただきました。
荷主等パトロールなどは、今まで地方運輸局がしたことのない業務でしたが、各地の優秀な職員が、一緒に動いてくれたり、情報提供してくれたりしました。また、2025年7月のGメン研修で実施したロールプレイングでは、私が講師を務めましたが、一緒に活動したことのある全国の仲間の多くが研修に参加してくれたので、彼らを各班のリーダーとして、初任者への指導やアドバイスをしてもらいました。
皆快く引き受けてくれて、研修では堂々と他の研修員に荷主への説明の仕方や心の持ちようなど、自らの経験を元に指導やアドバイスをしてくれました。その様子を見たとき、「あ、これで皆に思いを引き継げたな」とまた胸が熱くなりました。
我々の取り組みが世に知られ、国土交通大臣賞や人事院総裁賞の受賞や、天皇陛下への御接見と直接のご報告、さらに直接のお言葉という栄誉をいただくことができたのも、中国運輸局一丸となって取り組めたということに加えて、こうした様々な人の縁に支えられたことが大きいと考えています。
――いろいろと思い出のある中国運輸局への赴任だったのですね。
田中 そうですね。いま思えば、中国運輸局に赴任したからできたことは、すごく多いと思います。中国運輸局管内の職員、トラック等物流事業者、荷主、報道機関の皆さん、さらにそこから交流が広がりお世話になった全国の皆さんに大変感謝しています。
ちなみに、オンライン説明会で陛下への御接見についてご報告した際、「なぜ役人のお前が」と否定的なコメントがあるかと考えていたのですが、逆に「よくやった」「陛下に物流を見ていただける」「俺らの代表として行ってこい」など好意的なご意見を多数いただきました。
なので、限られた時間で、物流の状況を絶対漏らさず伝えなければいけない。そう意気込んでしまったため、陛下が我々の元に歩み寄られ、「お仕事はどうですか。」と聞かれたあと、気が付いたら、陛下に対して結構な分量のご報告をまくしたてていました。ひとしきり話し終えたあと、「やってしまった!」と冷や汗をかいたのですが、陛下はまっすぐ私の目を見て興味深そうに聞いてくださっていました。
さらに、まるで物流に関わる全ての人に語り掛けるかのように、ねぎらうお言葉をいただけました。その瞬間、自分に与えられた「物流に関わる皆さんの思いを陛下にお伝えする」という役目を果たせたと思い、ほっとしたのを覚えています。
緊張し、あっという間でしたが、ご質問などもいただき、とても濃密な時間でした。ただしっかりご報告をしなければという思いが強く、自分の所属や氏名を名乗ったのかどうかは記憶にありません。
――4月1日から茨城運輸支局長に就任されますが、今後はどんな活動をされますか?
田中 いま私からGメンの肩書は外れているのですが、物流に関しては引き続き担当させていただいています。担当は茨城県内ですが、物流は全国につながっていますし、色々な情報に触れ、関係者との対話を続けています。これからも勉強し、請われれば、できればどこでも直接伺って、ご理解いただけるよう説明を続けたいと思います。
それも、単なる法令解説、情報提供、事例紹介ではなく、物流、荷主といった関係者が腹を割って意見交換し、都合を合わせ、共に前に進めるよう活動します。まずは私に対して意見や質問をいただき、それをまとめて参加者に提供する、私をテニスなどの「壁打ち」の壁に見立てていただいて、私を通じて関係者がラリーのように意見交換できるような説明会「壁打ち討論」を続けていけたらと思っています。
また地元を含め、若手Gメン育成についても、請われれば自分の経験と情報を惜しまず提供したいと考えています。残りの公務員生活の「御礼奉公」の一つとして、物流の健全な維持のため、お役に立てるよう今後も頑張りたいと思います。
■田中幸久(たなかゆきひさ)氏の略歴
秋田県出身
1992年4月:運輸省大臣官房人事課 採用
政策統括官付政策調整官付(モーダルシフト等予算担当)
自動車局自動車情報課(自動車検査・登録システム予算担当)
2017年10月:国土交通省自動車局総務課 バス高速輸送システム推進官
2019年4月:国土交通省自動車局旅客課 課長補佐(公共交通・コロナ対策予算担当)
2021年4月:自動車技術総合機構企画部経営管理課 課長(併任同機構基盤システム更改担当)
2023年4月:中国運輸局貨物課 課長
2026年4月:関東運輸局茨城運輸支局 支局長
趣味は音楽。広島のブラスバンドやゴスペル団体にも所属し、市内各イベントにも参加。さらに一般公募で養成講座を受講のうえ広島市観光ボランティアガイドへの登録を許され、広島を訪れる修学旅行生への案内なども務めた。
(取材・文責 志鎌廣仁)
■トラック最前線/中国運輸局・田中課長が語る「トラック・物流Gメン」その1『荷主等パトロール誕生秘話』
https://www.trucknews.biz/article/s052530/
■トラック最前線/中国運輸局・田中課長が語る「トラック・物流Gメン」その2『Gメン活動の最大の目的は、当事者の自主的改善』
https://www.trucknews.biz/article/s053130/
■トラック最前線/中国運輸局・田中課長が語る「トラック・物流Gメン」その3『省庁間連携の現場報告』
https://www.trucknews.biz/article/s060730/
■トラック最前線/中国運輸局・田中課長が語る「トラック・物流Gメン」その4 『取適法・改正トラック法とトラック業界の今後』
https://www.trucknews.biz/article/s061050/
トラックニュースはトラックに関するB2B専門の
ニュースを平日毎朝メール配信しています
最新ニュース
一覧- 国土交通省/「適正原価の設定に向けた有識者検討会」開催、年内に提言を取りまとめ (07月17日)
- トラック適正化二法/適正原価は運送事業者に課される義務「ダンピング事業者の退出」促進 (07月17日)
- トラック最前線/日野が描く大型商用車の未来 ― 新セレガから見えた安全思想と大型トラックとの共通哲学 (07月17日)
- 三菱ふそう/国内全製造拠点でカーボンニュートラルを達成、持続可能な生産活動を推進 (07月17日)
- 日野自動車/日野市と包括連携協定を締結、共創による活動推進で地域課題の解決目指す (07月17日)
- アイリスオーヤマ、T2/自動運転トラック×貨物鉄道「モーダルコンビネーション」の定期運行視野に連携 (07月17日)
- TRC、三菱地所、NANKAI/自動運転トラックを活用した物流施設間連携の共同検討に着手 (07月17日)
- 猛暑・酷暑調査/約9割の企業が対策実施、「水分・塩分補給品の支給」が最多 (07月17日)
- 2030年問題/「運転」と「荷役」の切り替えを業界標準作業へ「にやっぷ普及委員会」発足 (07月17日)
- 新東名/7月25日夜、新富士IC~駿河湾沼津スマートIC(上り線)を通行止め (07月17日)
- 中国道/8月17日夜~29日朝まで、深谷PA(下り線)を夜間閉鎖 (07月17日)
- 国道23号 竜宮高架橋/7月21日5時頃、下り線(伊勢方面)の通行止めを解除予定 (07月17日)
- 国道55号日和佐道路/7月27日~8月1日、夜間全面通行止め (07月17日)
- アイチコーポレーション/「エルフ」「デュトロ」198台をリコール、積載物落下のおそれ (07月17日)
- 日野自動車/大型トラック「プロフィア」を一部改良、安全運転支援と運転負荷軽減機能を充実 (07月16日)
- 財務省/片山大臣「走行距離課税は検討していない」と明言 (07月16日)
- 全日本トラック協会/トラック議員連盟に「高速道路料金引き下げ、自転車の歩道通行」要望 (07月16日)
- 経済産業省/民間備蓄義務量の15日分の引き下げ「当分の間」維持 (07月16日)
- Hacobu/納品場所や現場ルールを共有する「配送先カルテ機能」をムーボ・フリートに追加 (07月16日)
- クロスマイル/ロジポケにパスキー認証機能追加、パスワード漏洩・フィッシング攻撃を防止 (07月16日)


