トラック最前線/日野が描く大型商用車の未来 ― 新セレガから見えた安全思想と大型トラックとの共通哲学

2026年07月17日 09:30 / トラック最前線

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大型トラックと大型観光バス。同じ高速道路を走る大型商用車でありながら、その役割も求められる性能も大きく異なる。しかし、「事故を起こさない」という安全思想だけは共通だ。日野自動車が約20年ぶりに大幅改良した大型観光バス「新セレガ」には、先進安全技術だけでなく、ドライバー不足や環境性能といった社会課題への答えも盛り込まれていた。大型トラックで培われた技術と思想は、観光バスでどのように進化したのか。20年間にわたり大型トラックやトレーラによる幹線輸送に携わってきた経験を踏まえ、新セレガを通して、日野自動車が目指す大型商用車の安全思想を読み解く。
場所:日野自動車 お客様テクニカルセンター
取材・文:山城利公

新セレガから見えた大型商用車の安全思想

高速道路では、大型トラックと大型観光バスが同じ路線を走る。しかし、その使命は大きく異なる。

大型トラックが担うのは、荷物を時間通り、安全かつ確実に、そして積み荷の品質を維持したまま目的地へ届けることだ。一方、大型観光バスは、多くの乗客の命を預かり、安全性はもちろん、快適な移動空間を提供しながら目的地まで送り届けることが求められる。

運ぶものは「荷物」と「人」で異なるものの、安全は両者に共通する絶対条件であり、商用車メーカーにとって決して妥協できないテーマである。

今回、日野自動車が発表した大型観光バス「新セレガ」は、約20年ぶりにフロントとリアのデザインを大きく刷新した。しかし、その変更は単なるイメージチェンジではない。フロントには風を受け流す抑揚ある艶やかな「ラウンディッシュデザイン」、リアには風を流す「ダイナミックシャープエッジデザイン」を採用。限られた車体寸法の中で空気の流れを整え、空力性能や燃費性能の向上を図るとともに、デザインと機能性を高い次元で融合させている。

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日野の大型観光バス・新型セレガ

空力性能を追求する考え方は、同社の大型トラック「プロフィア」にも通じる開発テーマだ。ただし、その表現方法は異なる。プロフィアは力強さや信頼感を、セレガは乗客に安心感や上質感を与えることが求められる。それぞれ異なるキャラクターを持ちながらも、機能性を追求した結果としてデザインが生まれる点は、両車に共通する日野の開発思想と言えるだろう。

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大型トラック「日野プロフィア」

日野自動車は7月に新セレガの試乗会を開催したが、そこで最も印象的だったのは、デザインやスペックよりも先に、「交通事故ゼロ」と「安全への取り組み」が語られたことだ。会場では交通事故の推移や事故形態に加え、ドライバー不足や高齢化、健康起因事故といった社会課題が示された。そのうえで、それらを解決するための安全技術が紹介された。新セレガは単なるモデルチェンジではなく、事故分析と社会課題を起点に大型商用車の安全を追求する、日野自動車の開発思想を具現化した一台なのだ。

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新セレガが搭載した新技術

安全装備の進化は、ドライバー不足時代への回答でもある

日野自動車が安全技術の説明に多くの時間を割いた理由は、交通事故の削減だけではない。

大型二種免許保有者の減少やドライバーの高齢化、インバウンド需要の回復による輸送需要の増加など、バス業界を取り巻く環境は大きく変化している。経験豊富なドライバーだけに頼る時代ではなくなり、「誰が運転しても安全に目的地まで送り届けられること」が、開発の大きなテーマとなっている。

その考え方を具現化したのが、新セレガに採用された先進安全装備群だ。今回の試乗会では、実際に乗客として複数の安全支援システムを体験することができた。

まず印象的だったのが、進化したプリクラッシュセーフティ(PCS)である。

筆者は大型トラックやトレーラによる幹線輸送に従事していた頃からPCSの効果を実体験しており、その有効性は十分理解している。しかし、第5世代へ進化した新型システムは、ミリ波レーダーの照射制御やカメラ性能の向上によって検知能力がさらに高められ、より自然で安心感のある制御へ進化していることを実感した。

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新セレガのPCS

そして、もう一つ強く印象に残ったのがEDSS(ドライバー異常時対応システム)である。

試乗では、ドライバーが意識を失ったという状況を想定し、システムが自動的に減速を開始、車線内を維持しながら安全に停止するまでを体験した。近年、バスやトラックではドライバーの健康起因事故が社会問題となっているが、このシステムは万一の際に被害を最小限に抑える技術として非常に有効だと感じた。

さらに、高速道路での疲労軽減に寄与するレーンキーピングアシスト(LKA)や、左巻き込み警報、出会い頭警報、車線変更警報、標識認識システムなども搭載され、安全性は大きく向上している。

興味深かったのは、これらの安全技術がバスとトラックで共通の技術をベースとしながら、それぞれの車両特性や使用環境に合わせて制御やセッティングが最適化されていることだ。同じ商用車であっても、人を運ぶバスと荷物を運ぶトラックでは求められる特性が異なる。その違いまで考慮した開発姿勢に、日野自動車らしい商用車メーカーとしての経験の蓄積を感じた。

今回は、新セレガで乗客として最新の安全支援システムを体験した。トラックとバスでは用途も役割も異なる。しかし、「事故を未然に防ぐ」という安全思想は共通している。その思想を最新技術として着実に進化させてきたことこそ、新セレガ最大の価値と言えるだろう。

トラックとバスでは「安全」の意味が違う

筆者は約20年間、幹線輸送で大型トラックやトレーラに乗務してきた。

高速道路では、大型トラックやトレーラ、そして大型観光バスが同じ道路空間を共有している。しかし、それぞれに求められる役割や走行特性は異なる。車両区分によって最高速度も異なれば、積載重量や乗車人数によって加速や減速の特性も変化する。その中で、ドライバーは常に周囲の交通状況を把握しながら、安全かつ定時運行を両立させることが求められる。

大型トラックは、荷物を時間通り、安全・確実に届けることに加え、積み荷の品質を維持することも重要な使命となる。一方、大型観光バスは、多くの乗客の命を預かるだけでなく、快適な移動空間を提供することも求められる。そのため、急制動や急加速による車内転倒など、トラックとは異なるリスクにも配慮しなければならない。

だからこそ、同じ商用車であっても、安全支援システムの制御や車両のセッティングは一律ではない。例えば、変速ショック一つをとっても、積み荷への影響を考えるトラックと、乗客の快適性を重視するバスでは求められる特性が異なる。

今回の試乗会でも、開発陣は先進安全技術の多くが大型トラックと共通の思想をベースにしながら、バス特有の走行環境や用途に合わせて制御を最適化していると説明した。「安全」という目標は共通でも、その実現方法は車両の役割に応じて進化している。そこに、商用車メーカーとして長年培ってきた日野自動車の技術と経験の積み重ねを見ることができた。

トラック、トレーラ、そしてバス。それぞれが異なる使命を担いながら同じ高速道路を走るからこそ、安全技術は画一的ではなく、それぞれの車両に最適化されなければならない。今回の新セレガは、その考え方を具体的な技術として形にした一台と言えるだろう。

新セレガで最も進化を感じた12速AMT

一方、新セレガで最も進化を感じたのが、新たに採用された12速AMTである。

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新セレガの12速AMT

従来の7速AMTも完成度は高く、不満を感じる場面は少なかった。しかし、新セレガでは変速そのものの存在感がさらに薄れ、発進から加速、そして巡航に至るまで、一連の動きが非常に滑らかになっている。

体験プログラムでは、エンジン回転を抑えながら細かくギヤをつないでいくため、「変速した」という感覚よりも、「自然に速度が乗っていく」という印象の方が強かった。加速時のトランスミッション特有の雑味や振動も抑えられ、乗客にとってより快適な移動空間を実現していることが伝わってきた。

今回採用されたのはZF製の12速AMTだ。開発陣によれば、単に段数を増やしたのではなく、日本の道路環境や大型観光バスの走行特性に合わせて最適化を図ったという。また、新たに採用された流体式リターダーとの協調制御も考慮し、ZF製トランスミッションを採用したとの説明もあった。実際に従来モデルと乗り比べると、変速のつながりやエンジン回転の使い方は理にかなっており、12速化によるメリットを十分に体感することができた。

一方で、興味深いのは大型トラック「プロフィア」の存在である。日野自動車は先日の「人とくるまのテクノロジー展 2026 YOKOHAMA」で、自社開発となる新型12速AMT「Pro Shift12(M112)」を初公開した。こちらは優良ドライバーのような低回転でのきめ細かな変速による省燃費性能や走行性能の向上を目指したトラック専用トランスミッションであり、開発思想はセレガとは共通しながらも、そのチューニングは大きく異なる。

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人とくるまのテクノロジー展 2026 YOKOHAMAで展示されたプロフィア搭載の12速AMT

荷物を運ぶ大型トラックと、多くの乗客を運ぶ大型観光バス。同じ12速AMTという考え方であっても、求められるのはそれぞれの用途に最適な制御である。今回の新セレガでは、乗客が心地よく感じる滑らかな加速フィールを重視したセッティングが印象的だった。一方、プロフィアは積載重量や走行条件を踏まえた最適な制御が施されているはずであり、ぜひ実際に試乗して、その違いを確かめてみたい。

リターダーも安全思想の表れ

もう一つ印象に残ったのが、新たに採用された流体式リターダーだ。

従来の電磁式から変更した理由について開発陣は、より高い補助制動力の確保を挙げるとともに、高速道路の長い下り坂などで発生する事故の防止を重要な開発テーマの一つとして説明した。

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新セレガが搭載した流体式リターダー

実際に体験した4段階のリターダー制御は、走行状況に応じたきめ細かな減速が可能で、減速力の強弱も非常に自然だ。高速道路で前走車との車間が詰まった際や、急な下り坂で減速が必要な場面でも、違和感なく速度をコントロールできる印象を受けた。十分な制動力を確保しながらも、乗客に不快感を与えにくい滑らかな減速フィールは、大型観光バスならではのセッティングと言えるだろう。

リターダーは、フットブレーキへの依存を減らし、ドライバーの疲労軽減にも大きく貢献する装備である。特に長距離・長時間運行では、こうした補助制動装置の性能が、安全性や運転のしやすさを左右する重要な要素となる。

大型トラックと観光バスでは求められる特性は異なるものの、この流体式リターダーがもたらす安心感は共通する。今後はプロフィアにも採用され、その実力を体感できる日を楽しみにしたい。

バスから始まる大型車の未来

今回の新セレガは、約20年ぶりにフロントとリアのデザインを大きく刷新した。しかし、その変更は決して見た目を一新するためだけではない。

試乗会で印象に残ったのは、デザイン担当者が何度も「機能がデザインをつくる」という考え方を語っていたことだ。

大型トラックや大型観光バスは、前面投影面積が大きく、空気抵抗の影響を受けやすい。限られた車体寸法の中で空気の流れを徹底的に追求し、わずかな燃費向上を積み重ねていく。その考え方は、この新セレガも大型トラック「プロフィア」も共通している。

一方で、その表現方法は異なる。新セレガでは、空力性能を追求しながらも、乗客に安心感や上質感を与えるデザインが求められる。観光地や街並みに溶け込み、「乗ってみたい」と感じさせる存在であることも重要な役割だ。

対するプロフィアは、空力性能や燃費性能を追求しながら、ハイルーフキャブやフロントグリルなどで力強さと信頼感を表現する。威圧感ではなく、大型商用車としての頼もしさや機能美を感じさせるデザインは、物流を支えるフラッグシップとしての存在感を演出している。

同じ商用車でありながら、それぞれ異なる使命を担うからこそ、デザインもまた用途に合わせて進化していく。その根底にあるのは、安全性や環境性能、そしてドライバーや乗客への配慮といった機能を最優先に考える日野自動車の開発思想である。

今回の新セレガで本当に進化したのは、外観だけではない。交通事故ゼロを目指す安全思想、ドライバー不足という社会課題への対応、快適性と環境性能の両立、それらすべてを一台の大型観光バスとして具現化したことにある。

今後、大型観光バスは観光用途だけでなく、大規模物流施設や工場、企業、空港など、多人数輸送を担う場面がさらに増えていくだろう。そうした新たなニーズの中でも、安全性を軸に進化した新セレガは、大型商用車の新しい可能性を示す存在となるはずだ。

そして、その未来はバスだけにとどまらない。大型トラックと大型観光バス、それぞれ異なる使命を持ちながらも、安全技術や環境技術、そして人に優しいクルマづくりという思想は、これからも互いに磨かれ、商用車全体の進化につながっていく。その意味で新セレガは、一台の新型バスという枠を超え、日野自動車が描く大型商用車の未来を映し出す一台であった。

【取材・文:山城利公(やましろ・としまさ)】
1963年・東京生まれ、モータージャーナリスト/プロドライバー
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
幹線輸送トレーラのドライバーとして200万km(約20年・地球50周以上)におよぶ無事故運行の実績を持ち、商用車技術と物流業界に精通。実体験と現場視点をもとに、クルマ社会の「今」と「未来」を発信するとともに、商用車関連の技術評価や実証プロジェクトにも関与している。
大型けん引免許(ダブル連結トラックSF25技能講習修了)/自動車整備士(国家資格)/整備管理者(選任資格)/国内競技運転者許可証A級(JAF公認)/JAF公認審判員ライセンス(コースA2/技術A2)/フォークリフト運転技能講習修了

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