
EVトラックは、どこまで「普通のトラック」になったのか。
三菱ふそうトラック・バスの小型EVトラック「eキャンター」に、しばらくぶりに乗る機会を得た。第3世代となる現行モデルは、ラインアップや架装対応、キャブ、ホイールベースなどの選択肢が広がり、EVでありながら「仕事に合わせて選ぶ」という商用車本来の姿に近づいている。
実際にステアリングを握ると、エンジン音や振動がなく、発進時から力強いトルクが立ち上がる電動車ならではの運転のしやすさを実感する。一方で、航続距離や充電インフラなど、EVならではの課題も残る。
だからこそ重要なのは、「EVかディーゼルか」という二者択一ではない。どんな仕事に、どのように使うのか。そして、トラックが走ることで生まれるデータを、物流や社会にどう生かしていくのか。今回の試乗とアーチオンのコネクテッドデータの取材から見えてきたのは、商用車の電動化が「エンジンをモーターに置き換える」だけではない、その先の可能性だった。取材・文:山城利公(モータージャーナリスト)
「EVだから運転しにくい」は、もう過去の話か
eキャンターの現在地を考えるうえで興味深いのが、EVトラックの普及状況だ。取材時点の説明では、小型トラック全体に占めるEVの比率は約2.5%。一方、事業用の緑ナンバー車に限れば10%を超えているという。
まだ市場全体を見れば大きな数字とは言えない。しかし、実際に使っているユーザーからは「静か」「振動がない」「運転しやすい」といった声が寄せられているという。これは実際に乗ってみても納得できる。

今回試乗した三菱ふそう「eキャンター」。全長4820×全幅1920×全高2890mm、最大積載量1700kg、車両総重量4965kg。標準キャブで搭載バッテリーはSサイズ、最高出力110kW(150ps)、最大トルク430Nm。
まず、圧倒的なのが静粛性だ。エンジンという大きな音源と振動源がないことで、これまでトラックを運転していると当然のように感じていた「ゴーッ」という感じがない。低速から速度を上げていっても、室内は驚くほど静かだ。
しかも、電気モーターは発進時から大きなトルクを発生する。eキャンターではアクセル操作に対してモーターが素直に応答し、荷物を積んでも加速感が大きく変わらない。
この「楽に動く」という感覚は、単にスペックの話ではない。ドライバーの負担を減らすという意味で、商用車として大きな価値になる。
実際、「一度eキャンターに乗ると、その後ディーゼルトラックに戻りたくない」という声もあるという。若手ドライバーでも運転しやすいという評価も興味深い。
CO2削減や燃料費だけでなく、「運転する人にとって楽なクルマになる」という価値も、もっと評価されていい。
第3世代で広がった「使えるEV」
現行eキャンターの進化は、単に電動パワートレーンの性能向上だけではない。
第3世代では、ノーマルキャブに加えてワイドキャブに対応し、ホイールベースの選択肢も広がった。架装バリエーションも増え、ディーゼルトラックに近い感覚で車両を選べるようになった。
商用車は、何を運ぶのか、どこを走るのか、1日に何km走るのか、どんな架装を載せるのかによって必要な車両が変わる。
だからこそ、EVトラックも「EVだからこの仕様」という特殊な存在ではなく、ディーゼルトラックと同じように、仕事に合わせて選べることが重要になる。
EVトラックも「実証実験のための特殊車両」から、少しずつ「仕事を選べる普通のトラック」へ近づいている。ただし、EVトラックの課題がなくなったわけではない。その代表が航続距離だ。
取材では、現在も「もう少し走ってほしい」というユーザーの声があることが説明された。1日に300km程度走るユーザーもいる以上、すべての用途をEVだけでカバーすることは難しい。
これはEVトラックの欠点というより、用途とのマッチングの問題だろう。
たとえばラストワンマイル配送、ゴミ収集、近距離の建設関連などは比較的EVとの相性がいい。ルートが固定され、毎日決まった場所へ戻る車両なら、必要な走行距離を把握し、車庫に充電設備を設置することもできる。
ゴミ収集車では「静か」という特徴も大きなメリットになる。夜間や早朝の収集では、エンジン音による周辺環境への影響もある。

ごみ収集車はEVとの相性が良い。写真は24年3月、神奈川県の厚木市環境センターに納車されたeキャンター「EVごみ収集車」
ただ、車両が静かになると、今度は架装側の音が目立ってくる。冷凍・冷蔵車の冷却装置やミキサー、油圧を使う架装なども電動化していくことで、ようやく「静かな商用車」という価値が完成する。
EV化は、パワートレーンだけの話ではないのである。
「充電器を増やせばいい」だけではない
もうひとつの大きな課題が充電インフラだ。
ここは「EVが増えれば充電器が増える」「充電器が増えればEVが増える」という、いわば鶏と卵の関係にある。
そこで重要になるのが、「どこに充電器を置けば、実際に使われるのか」という視点だ。
取材では、車両の走行データを活用して、充電インフラの設置場所を考える可能性についても話が及んだ。
どの地域をどれだけのトラックが走っているのか。どの時間帯に集中しているのか。どこで止まっているのか。こうした情報が分かれば、実際に利用される可能性の高い場所を判断する材料になる。
つまり、必要なのは単純に充電器の数を増やすことではない。「必要な場所に、必要な数を置く」ための情報なのだ。
ここで「コネクテッドデータ」という存在が浮かび上がってくる。
50万台規模のトラックデータが生む新しい価値
2026年7月、日野と三菱ふそうを統括するアーチオンは、日野と三菱ふそうのコネクテッドデータを組み合わせたデータ分析サービスについて、報道陣向けに説明会を行った。
【関連記事】アーチオン/日野と三菱ふそうのコネクテッドデータを統合し、物流インフラ課題を解決へ
日野は中型・大型トラック、三菱ふそうは小型トラックを含む幅広い商用車を得意としてきた。それぞれのデータを組み合わせることで、約50万台規模のトラックデータを扱えるようになるという。

日野25万台・三菱ふそう25万台の商用車に標準装備された通信機から収集されるコネクテッドデータを統合し、物流インフラの課題解決を支援するデータ分析サービス「Logita(ロジータ)」を7月から開始した。
しかも、単純な位置情報だけではない。どの道路を走ったのか、どのような速度で走ったのか、アクセルやブレーキをどう操作したのか、安全装置が作動したのか、燃料消費量はどうだったのか。さらに日野側のデータでは、ワイパー作動などから天候や路面状況を推測することもできる。
つまり、トラックが「どこにいるか」だけではなく、「いつ、どこを、どのように走っているか」が見えてくる。
1秒ごとの位置データを使えば、市街地の細かなボトルネックを分析することも可能になるという。車両の種類や時間帯まで見えてくれば、単なる渋滞情報とは違った分析ができる。
トラックのデータが「社会」を変える
アーチオンが示したデータ活用の面白さは、単なる運行管理にとどまらないところにある。
例えば、道路管理。実際にトラックが多く走っている道路を把握できれば、道路補修や維持管理の優先順位を考える材料になる。
災害時には、物流がどのルートを通っているのかを把握することで、道路寸断による物流への影響を分析することもできる。さらに、水素ステーションの最適な立地予測などにも活用されているという。
アーチオンの説明では、これまで日野が得意としてきた中・大型車のデータに、三菱ふそうが持つ小型トラックのデータを加えることで、幹線道路だけではなく、より細かな道路やラストワンマイル領域まで見えるようになることが期待されている。これは商用車メーカーだからこそ持てるデータの強みだろう。
商用車は「仕事」という明確な目的を持って走っている。どこから出発し、どこへ向かい、どの時間帯に動き、どこで荷物を積み降ろしするのか。そこには物流という社会活動そのものが刻まれている。

実走行データを可視化・活用することで、様々な課題解決が可能になる
データを「見える化」しただけでは終われない
一方で、今回のアーチオンの説明を聞いて、私自身が気になったこともある。
それは、「データを見える化するだけでは、競争力にはならないのではないか」ということだ。
データを提供するだけではなく、それを使って「こう業務を変えたらいい」「こう運行すれば効率が上がる」「こういう経営判断ができる」といったところまで踏み込むのか。
アーチオン側からは、現在も顧客ごとの運行最適化など、顧客自身のデータを分析して返すサービスは存在するとの説明があった。一方、今回発表された共同データ分析サービスについては、現時点では社会課題の解決が大きなテーマだという。
メーカーが「車両を売る」だけではなく、「車両が生み出すデータを使って、お客様や社会の課題を解決する」。
その方向へ商用車メーカーの役割が広がっていけば、トラックそのものの価値も変わってくる。
安全も「データ」の先にある
もうひとつ、今回のeキャンター試乗で強く感じたのが安全技術だった。
現行モデルには、前方の衝突被害軽減ブレーキや、歩行者・自転車などを検知する機能、ウインカー操作と連動した警告・制動などが搭載されている。
一方で、実際に運転してみると、まだ改善してほしい部分もある。
そのひとつが、回生ブレーキの操作性だ。eキャンターでは回生ブレーキの強さを選択できるが、実際のトラック運転を考えると、排気ブレーキやリターダーのように、直感的に操作できるレバー式のほうが自然ではないかと感じた。この点については、現場からも同様の声が寄せられているという。
また、電動パーキングブレーキが標準装備され、PレンジやDレンジと連動して自動作動・解除されることを考えると、ブレーキホールド機能の搭載も期待したくなる。
こうした部分は、スペック表だけでは分からない。実際にドライバーが乗り、「ここはこうしたほうがいい」と伝えることで、次のモデルへつながっていく。
商用車の安全技術には、この「現場の声」が非常に重要だと思っている。

現行eキャンターは回生ブレーキの強さを4段階で切り替えることが可能。シフトレバーを左に倒し、レバーを前後に動かすことで回生の強さを変更できる
「ブランドらしさ」は電動化でも残るのか
もうひとつ、今回の試乗で考えさせられたのが、アーチオンという新しいグループ体制の中での「ブランドらしさ」だ。
日野と三菱ふそうが一つのグループとして動き始めるなか、それぞれの開発拠点で情報交換や交流が始まっているという。
しかし、トラックを長く運転してきた立場からすると、車両にはメーカーごとの「思想や操作感」がある。
ステアリングの重さ、ブレーキペダルの感覚、ブレーキの効き方、スイッチの配置、シフト操作など、細かな違いがドライバーにとっての「それぞれのメーカーのトラックらしさ」につながっている。
電動化が進んでも、この部分は失ってほしくない。
基本的な安全思想や操作の考え方を共有しながら、それぞれのブランドらしい操作感をどう残していくのか。これは今後のアーチオンを考える上で、個人的に興味深いテーマでもある。
EVトラックは「クルマ」から「システム」へ
今回、eキャンターに乗り、さらにアーチオンのコネクテッドデータの説明を聞いて、二つの取材が一本につながったように感じた。
eキャンターを走らせる。
どこを走るのか。
何km走るのか。
どこで止まるのか。
どこで充電するのか。
どんな荷物を運ぶのか。
それを毎日の運行データとして蓄積する。
そのデータが、運行効率の改善だけではなく、道路整備や災害時の物流、充電・水素インフラの配置など、社会側の判断材料になっていく。
トラックそのものが、社会のデータを生み出す存在になる。そして、そのデータを使って、次のトラックの使い方やインフラを考える。
もちろん、航続距離、車両価格、充電設備、架装、バッテリー、そしてユーザーの使い方など、解決すべき課題はまだ多い。すべてのトラックが、すぐにEVになるわけでもない。長距離を走る車両では、ディーゼルやハイブリッドとEVを使い分ける時代が続くだろう。
だからこそ重要なのは、「EVかディーゼルか」という二者択一ではない。
その車両が、どんな仕事をしているのか。どんなルートを走るのか。どこでエネルギーを補給できるのか。そして、その運行からどんなデータが生まれているのか。そこまで含めて考える必要がある。
eキャンターに実際に乗ってみると、EVトラックはすでに「特別なクルマ」ではなくなりつつあると感じる。
静かで、振動が少なく、力強く、そして運転しやすい。
一方で、その先にある本当の変化は、車両の中だけでは起きていない。
トラックが走る。
その走行がデータになる。
データが物流を変え、インフラを変え、そして次のトラックを変えていく。
商用車の電動化とは、もしかすると「エンジンをモーターに替えること」ではなく、トラックと物流、そして社会とのつながり方そのものを変えることなのかもしれない。
今回のeキャンター試乗とアーチオンのデータ活用の取材から見えてきたのは、そんな「電動化の、その先」である。
【 取材・文:山城利公(やましろ・としまさ) 】
1963年東京都生まれ。モータージャーナリスト/企業コラボレーション・コーディネーター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
幹線輸送トレーラの運行乗務員として約20年間、200万km(地球約50周分)にわたり無事故運行を継続。商用車技術や物流業界に精通し、実体験と現場視点を生かした取材・執筆を行う。近年は商用車関連の技術評価や実証プロジェクトにも参画し、企業・研究機関・メディアを結ぶコーディネートにも携わっている。
保有資格:大型けん引免許(ダブル連結トラック〈SF25〉運転資格保有)/自動車整備士(国家資格)/整備管理者(選任資格保有)/国内競技運転者許可証A級(JAF公認)/JAF公認審判員ライセンス(技術A2・コースA2)/フォークリフト運転技能講習修了

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