多重下請構造検討会/「利用運送事業者が介在する意義の見える化」などを提言

2025年08月18日 16:50 / 経営

国土交通省はこのほど、6月に開催した「第4回トラック運送業における多重下請構造検討会」のとりまとめを公表した。

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この検討会は2024年8月に設置され、トラック運送業の多重取引構造の是正やドライバーの賃上げの原資となる適正な運賃の収受に向けて、様々な事業者の実態把握や多重取引構造の背景や課題を検証している。

4回目となる今回は、前回の検討会での論点整理を踏まえて学識者を交えた議論が行われ、多重取引構造の是正に向けた今後の政策の方向性として、「川上を起点とする規律ある取引環境の形成」「川下における浄化作用の強化」「川上と川下をつなぐ取引ルートの拡大」「荷主側の意識改革の加速化」が示された。

検討会では「トラック運送業においては、長年多重取引構造が形成されていると言われ続けてきたものの、その発生原因については、繁忙期での運送や長距離輸送における地場運送の手配により生じるものとして、あたかも必要悪として語られてきた側面がある。しかしながら、多重取引構造が形成される大きな要因は、長年に亘って積み重ねられてきた商慣行であった」と指摘。

その一方で「物流2024年問題への対応から生じた一連の社会の動きは、昨年の改正物流法、本年5月に成立した『下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律』、そしてトラック適正化二法など、様々な制度改正として結実してきており、多重取引構造を取り巻く環境は着実に変化している。長年業界に染みついた商慣行を打破する千載一遇の機会が到来していると言っても過言ではない」としている。

その上で「この機会を捉え、改正された各法令を着実に施行し、施行後の状況についてもフォローアップを行うとともに、これらの法令でもなお対象となっていないマッチング・取次等のあり方については、効率的・効果的なマッチングが多重取引構造の是正を促進する可能性があることを念頭に、更なる活用の可能性を見据えた上で、さらに検討を深めるべきである」と提言した。

さらに「多重取引構造にまつわる商慣行は、必ずしも、荷主等に起因して直接的に生じたものではなく、トラック運送業界の中で蓄積されてきたものであり、その『積弊』を正すことはトラック運送事業者自身にも痛みをもたらしうる。しかしながら、そうした実態に目をつぶっていても、状況は何ら改善しない」と指摘する。

「着荷主も含めた荷主との商慣行のみならず、トラック運送事業者間の商慣行にも光を当ててこそ、トラック運送における取引の適正化を実現できるのであり、トラック適正化二法をはじめとしたこれまでの制度改正を踏まえたトラック運送業界自らの自戒や取組も必要となる。今こそ、官民を挙げて健全な競争環境を実現するときである」とした。

具体的には、「元請事業者を中心とする多重取引構造の抑制と健全化」「元請けと実運送事業者の間で介在する全ての者による利用運送の適正化」「利用運送事業者が介在する意義の見える化・再整理」を求めた。

現状では、多重取引構造を可視化するために昨年の改正物流法で新たに導入された契約内容の書面化や実運送体制管理簿の作成義務等は、実際に運送を行うトラック運送事業者が一義的に責任を負うべきであるという考えのもと、トラック運送事業者にのみ適用されることとなっている。

他方で、これは見方を変えると、現在の規制的措置は、他者の運送を利用するという同じ行為に対して事業法ごとに別の規制が課されている状態とも言える。さらに、多重取引構造を是正する主目的であるドライバーの賃上げ、そしてそのための原資となる適正運賃の収受という観点から考えると、トラック運送事業者であるか、利用運送事業者であるかは問わず、荷主と実運送事業者の間に介在する全ての者によって手数料の中抜きが繰り返されることが問題といえる。

このため、現状の事業法上の整理にとらわれず、実際に行っている行為や担っている運送責任の重さに応じて、法令上のカテゴリーを再整理することについても引き続き検討が必要である。

トラック適正化二法では、昨年の改正物流法においてトラック運送事業者に新たに課した上述の規制について、利用運送事業者も対象に加える旨の改正を行っているため、まずはこれらの法改正による効果を検証したうえで、運送契約に基づかず仲介等その他の介在を行う者も含め、必要な措置を検討すべきである。

利用運送事業者は他者の運送を利用することを前提に荷主等から運送依頼を引き受けていることから、実運送事業者が適正な運賃を収受するためには、利用運送事業者が、実運送にかかるコストを十分に認識した上で運送依頼を引き受けることが重要である。

その際、利用運送事業とは、本来、運送依頼を一度請け負った後、自らの責任で、実運送を行う事業者を手配する事業であり、利用運送事業者は、どのような実運送事業者を手配するかによって自らのいわゆる「手数料」相当額を総合的に調整する者であるはずである。中でも、物流子会社のような、荷主企業から分社化して設立された会社は、まさに当該荷主に係る物流のトータルコーディネートを任されている立場であり、自らのネットワークを用いて、請け負った運送について責任をもってコーディネートを完遂させることが期待されている。

しかしながら、現在の第一種貨物利用運送事業者(自動車)には、単に案件を他の運送事業者に委託し、その内容や付加価値の軽重に関わらず一定の割合で手数料相当額を収受する者も含まれており、これは、本来、利用運送事業に期待されるものではない。このように、利用運送事業者の中でも、その提供している付加価値は事業者によって異なるが、現状ではすべて「利用運送事業者」として一括りとなっており、荷主等の立場から見ると、どの事業者が高い付加価値を提供しているのか判断しづらい状態となっている。

加えて、今般の実態結果により明らかになったとおり、トラック運送事業者であっても、自ら運送することを前提とせずに運送を受託し、他の運送事業者に委託することで手数料相当額を収受する者も多数存在しており、外形的に分かりづらい状況に拍車をかけている。

この点、運送の実現に関して果たしている役割に応じて利用運送事業者を分類し、事業者の役割を明示することで、付加価値の高い提案やコンサルティング等を行う利用運送事業者は通常よりも高い運賃を収受しやすくなり、一方で提供する付加価値が高いとは言えない利用運送事業者等は相応の手数料相当額の収受にとどまる方向につながるものと考えられる。他方、上述のとおり、生み出している付加価値は事業者によって様々であるため、手数料額そのものについて一律の規制を行うことは実態にそぐわないものとも考えられる。

なお、利用運送事業者でありながら、運送契約を締結せずに仲介・取次のみを行う事業者については、今回の実態調査で判明したように、個々の運送条件等に関わらず商慣行として一定の割合で手数料を収受しており、上述のとおり、本来求められる、実運送にかかるコストへの意識が低い傾向にあると言える。

こうした手数料の収受が繰り返されることにより、実運送事業者における適正な運賃収受が妨げられる状況になっているとも考えられることから、登録事業者の実態も踏まえ、あるべき規制のあり方について、検討すべきである。

■トラック運送業における多重下請構造検討会とりまとめ
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001898301.pdf

■トラック運送業における多重下請構造検討会
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000122.html

全ト協/トラック適正化法で常設委員会新設「更新制・適正原価導入」が優先課題

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