公正取引委員会は12月23日、運送事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果を発表した。
集中調査は、特定の業種・業界に対して、リソースを集中的に投下して調査を行うのが特長。一方で、下請法では、個別の事業者に対して勧告を行って、その旨を公表しており、いわば点の執行を行っている。勧告によって、同業種の事業者に注意喚起を促すことができ、勧告を受けて業界団体に要請などを行っている。
しかし、業界の商慣習から下請法違反が生じているもの、商慣習とは言えなくとも業界によくある下請法違反について、個別に対処するのではなく、その業種に対して、集中的に調査を行って指導を行い、その事例と指導内容を公表することで、その業界・業種の取引の適正化を進めるために新たに導入したのが、集中調査となる。
4月以降、運送事業者間の取引における下請法違反被疑行為について集中調査を行い、運送事業者に対して、2件の勧告、530件の指導を行うとともに、中小企業庁において下請Gメンによるヒアリングを実施した。
<武田執行連携担当企画官>

企業取引課の武田雅弘執行連携担当企画官は、「運送事業者には今年度も2件の勧告を行っているが、トラック運送は価格転嫁が円滑に進んでいない業種の一つとなっている。同時に、物流の2024年問題への対応を含めて、取引の適正化を早急に進めなければならない業種の一つだ。現在、物流関係の法律も改正され、国土交通省においても、トラック・物流Gメンを中心に取引の適正化に取り組んでいるが、公正取引員会においても積極的に取引の適正化を進める必要がある」と述べた。
そのうえで、「加えて、取適法では、特定運送委託が新たな取適法の対象となる取引に追加される。発荷主から運送事業者に対する委託が取適法の適用対象となる。しかしながら、従前から下請法の適用対象である、運送事業者間の取引においても、取引の適正化が必要なため、今回、集中調査の対象とした」と運送事業者を集中調査の対象として背景を説明した。
<公正取引委員会>

運送事業者間での主な違反行為は、「書面の不交付・記載不備」「買いたたき」「不当な経済上の利益の提供要請」の3つ。
書面の不交付・記載不備については、「運送業務を委託する際、発注書面等を交付していなかった」「運送業務以外の役務(荷待ち、積込み・取卸し等)を委託しているにもかかわらず、委託する際に当該役務を「提供される役務の内容」として記載していなかった」事例が見られた。
そのため、運送業務以外の役務を委託しているにもかかわらず、委託内容として記載していない運送事業者に対して、具体的に明記するよう指導。また、発注書面等に「その他一切の附帯業務」という記載をしていた場合、役務の内容について運送業務以外の役務を明確にするよう指導した。
買いたたきでは、「コスト上昇局面において、受託側の運送事業者と協議を行うことなく代金を据え置いていた」「受託側の運送事業者が代金の引上げを求めたにもかかわらず、理由を書面等で回答することなく、代金を据え置いていた」「委託内容として発注書面等に記載しているにもかかわらず、 運送業務以外の役務について協議を行わず、その代金を支払っていなかった」事例があった。
そこで、運送事業者に対して、受託側の運送事業者との十分な価格協議を行う場を設けるよう指導。また、協議の際には、昨今の労務費等のコスト上昇を考慮し、十分な協議を行った上で代金の額を定めるよう指導した。
不当な経済上の利益の提供要請では、「委託内容として発注書面等に記載していないにもかかわらず、運送業務以外の役務(荷待ち、積込み・取卸し等)を無償で行わせていた」「有料道路の利用が必要な運送業務であるにもかかわらず、有料道路の利用料金を受託側の運送事業者に負担させていた」事例が見られた。
そのため、運送業務以外の役務の内容を運送業務とは区別して定め、当該役務に係る対価について十分な協議を行い、適正な対価を定めて支払うなど、受託側の運送事業者の利益を不当に害さないよう指導を行った。
勧告を行ったのは、南日本運輸倉庫、センコーの2社。南日本運輸倉庫は、自社が荷主から請け負う食品の運送の全部又は一部を他の運送事業者に委託しているところ、2024年6月から2025年9月までの間、代金の額を減じていた。
センコーは、荷主から請け負う貨物の運送を他の運送事業者に委託しているところ、2022年12月から2025年11月までの間、受託側の運送事業者17名に対し、自社が管理する施設内において、自己のために無償で荷積み及び荷卸し並びにその他運送に附帯する業務を行わせることにより、受託側の運送事業者の利益を不当に害していた。
また、2022年12月から2024年3月までの間、自社が貨物の荷積み又は荷卸しの準備を終えていなかったなど自社の都合により、受託側の運送事業者19名に対し、自社が管理する施設内において、自己のために無償で貨物の受渡しのための待機を長時間行わせることにより、受託側の運送事業者の利益を不当に害していた。
運送事業者間の取引においては、取適法、トラック法等の関係法令の遵守を徹底し、物流業界全体で事業者間の対等な価格交渉の確保への機運を醸成しながら、取引適正化を進めていくことが求められる。
今後、物流業界の取引適正化を阻害する行為に対してシームレスに対応するため、公正取引委員会、中小企業庁及び国土交通省との3省庁で執行情報の共有を行う連絡会議を定期的に開催するなど、一層の執行連携に取り組む。また、公正取引委員会と中小企業庁は、取適法に違反する又は違反するおそれのある行為については迅速かつ厳正に対応する。
武田企画官は、「公正取引委員会、中小企業庁、国土交通省との3省庁で執行情報の共有を行う連絡会議は、来年1月の取適法施行後、1月中に速やかに開催する。その後の開催スケジュールや頻度は未定だが、可能な限り連絡会議を開き執行情報を共有し、法執行の実効性を高めていきたい」と語った。
■運送事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果
公正取引委員会/センコーに「無償の荷役作業・長時間の荷待ち」で初の勧告