
トヨタ自動車が、港湾地区のコンテナ物流効率化のために輸送と倉庫作業双方の効率化を実現するために提供しているのが、コンテナ物流効率化システム「One Stream」(ワンストリーム)。このOne Streamに今年1月から新機能として「トラック受付システム」が導入された。その活用により、トラック輸送の大きな課題の一つである「荷待ち時間」の短縮化など、より高効率な物流が期待されるところだ。そこでトヨタ自動車 新事業企画部でOne Stream代表を務める足立聡史氏にその狙いや展望について伺った。
■コンテナ物流全体を対象にする「One Stream」
労働力不足(ドライバー、港湾作業員)、港湾の混雑と船の遅延、コンテナの需給バランス、高コスト化、国内輸送のモーダルシフトへの対応、そして荷物管理(温度・湿気管理、荷崩れ)などコンテナ物流には、複数の課題が存在する。一方で日本の経済や生活を支える重要な基盤と位置付けられており、停滞は望ましくない。
そこでトヨタ自動車が提供しているのが、港湾地区におけるコンテナ物流に特化して、輸送と倉庫作業双方の効率化を実現するコンテナ物流効率化システム「One Stream」である。このシステムは、リアルタイムでの自動配車支援を軸に、位置情報管理や各種番号の自動識別、企業間の情報共有の機能などにより、輸送、倉庫、荷主が一体となった物流の効率化を支援するものだ。
<One Streamの特徴(4つのサービス一覧)>

具体的には、荷主から陸送、倉庫、港湾ドレージ、コンテナヤードの前後工程を連携する4つのサービスを提供している。一つ目はドレージ事業者向けの自動配車支援サービス、2つ目が倉庫事業者に向けた作業進捗管理やコンテナ到着情報の事前共有サービス、3つ目は倉庫事業者と荷主企業間の情報を一元管理し、共有を簡易化するサービス、そして4つ目が、今回導入したトラック企業向けの動態管理のサービスだ。
足立氏はOne Streamの特徴を「これらのサービスを一事業者だけではなく、複数の事業者を対象にしているところ」とし、「一気通貫でコンテナ物流をつなぐオールインワンの物流サービス」だと説明する。
コンテナ物流は、荷主からコンテナヤードまで複数の異なる事業者が連携していくが、これまでは荷主は荷主で、倉庫は倉庫でと、それぞれ個社ごとにツールを導入する運用が多く見られた。しかし、これでは全体をスムーズに動かすことはできない。
例えば倉庫だけが効率よく出庫しても、その先の港湾ドレージが滞っていれば、物流が停滞してしまう。サプライチェーンで連携する事業者が「同じデータを見て、共有しながら効率化を進める」ことが必要だ、と足立氏は話す。
「例えば、荷物のオーダー情報やドライバーの情報、倉庫作業の計画を登録していく、そうすると自動的に配車やバースの割り当てなどの動態管理や、倉庫側の荷役の作業管理もできる。運び終えた実際の物流情報を共有し、管理することもできる。当然情報が集まれば、帳票の作成も出来ます」。新物効法では、努力義務として積載効率の向上、荷待ち時間の短縮、荷役等の時間短縮、実効性の確保が課せられ、また元請事業者には実運送体制管理簿の作成が義務づけられる。One Streamはこれに合わせてシステムを構築したわけではないが、関係する企業間が連携する仕組みを追い求めてきた結果「対応できている」(足立氏)という。
<One Stream 足立聡史代表>

■現場をよく知る立場だからこその現場目線へのこだわり
そして、もう一つの特徴が「現場目線」のシステムとなっているところだ。
「私たちは、現場で培った知見を活かして、現場のことをより深く理解することが大切だと思っている」と足立氏。というのも、トヨタ自動車自身が荷主であり現場をもつ立場だからだ。それだけにコンテナがどのように動いているか、トラックの位置や倉庫の状況など、実際の動きや現場の状況に合わせたシステムに徹底的にこだわる。「現場の実態に精通している点が私たちの強みですね」。
この現場へのこだわりは、One Streamが誕生した経緯も関係ありそうだ。
先に触れたように、物流効率化システムは、これまで個社単位での利用を前提としたものが中心だった。これに対してOne Streamは、出発点である荷主から最終地点のコンテナヤードまでを一つの流れと捉え、全体最適化を図るのが特徴だ。
このシステムは足立氏の発案から企画がスタートしたものだが、そこで注目されるのは、そもそも足立氏はそれまで車両開発に携わっており、いわゆる「物流のプロ」ではなかったことだ。
トヨタのエンジニアとして、北米向け車両の足回りを開発していた足立氏だが、雑誌や報道で物流危機について取り上げられているのを目にしたのが発端だという。「そこで物流について調べてみたら、自分が設計した部品もこうやって運ばれているのだ、ということがわかった」と足立氏。
では物流とは何か、徹底的に調べ始めた足立氏だが、ある時、港湾で滞留するコンテナ輸送のトラックに疑問を感じたという。「本来稼働している(走っている)はずのトラックがずっと止まっている。なぜそうなっているのか、どうしたら解決できるのか」。
おそらく足立氏が始めから物流部門の担当者であったならば「コンテナ物流とはそういうもの」で終わった可能性もある。しかし、物流の知識がなかったからこそ、そこに疑問を感じたというわけだ。そして、問題を解決するための方策を考えるのは、エンジニアならではだ。
さらに、トヨタにとってもサプライチェーン一体となって競争力を強化することは大切である。物流が止まってしまえば、自動車のサプライチェーンが維持できなくなる可能性がある。ソリューションを売ることが目的ではなく、コンテナ物流がスムーズに流れることが目的だ。そのために誕生したのがOne Streamというわけである。
足立氏は「物流がないと、私たちも私たちの将来の子供たちも住みよい暮らしができなくなってしまう。そのために、いま頑張りたいと思っている」と語る。その想いがOne Streamの原動力となっているといえそうだ。
■荷待ち時間短縮を実現する新機能「トラック受付システム」
さて、One Streamは1月から新機能として「荷待ち荷役時間の自動計測システム」と「トラック貨物受付システム」をリリースした。前者はOne Streamが採用している高精度なGPSを活用するもので、荷待ち時間の短縮が目的だ。
2024年4月に、運送事業者には荷待ち・荷役の時間や作業内容の記録が義務付けられた。これは「荷待ち・荷役作業合計2時間以内」というガイドラインを荷主に守らせるためでもある。ということは、荷待ち・荷役時間を正確に把握する必要がある。
ちなみに国土交通省が実施した「2025年トラックドライバー調査」によると、2024年度の荷待ち時間は1時間28分で、2020年度の1時間34分から6分の短縮にとどまっている。また2024年度の荷役時間は1時間34分で、2020年度の1時間29分から5分増加。さらに付帯作業時間は16分で、2020年度から大きな変化は確認されていない。これらの状況から、引き続き取り組みが必要な分野であることがうかがえる。
高精度なGPSの情報から、物流施設の敷地への出入りはもちろん、待機場所や荷役場所への出入りも正確に測定することも可能だ。使用するハードはGPSだけなので、トラックドライバーが操作する必要がないのもメリットである。このようなところも、One Streamの「現場目線」らしい。
足立氏は「ドライバーさんからすれば、いろいろ触らなくて済む方がいい。一方で、データを扱う方からすると、客観的に正しいデータが得られる」とGPSを使うメリットを説明する。「物流の効率化には正しいデータが必要になってくるし、そのためには事業者さんに負担かけない仕組みが必要ですが、どちらも両立できるものとして選んでいます」。
<トラックに搭載するGPSユニット>

さて、最も重要なのは、正確に把握した荷待ち・荷役時間を、どのように活用するかだ。
「荷待ち時間のデータを積み上げることで、どこで時間が掛かっているのかがわかる。何月何日のどのトラックが2時間を超えていた、というようなログも出るので、そのオペレーションを確認していくことで課題が見つかり、改善することができる」と足立氏は話す。
例えば、負荷が高いために荷待ち時間が長くなりやすい現場の場合、それを管理者側に伝えても感情論で捉えられ、正確に伝わらないことも多い。またサプライチェーンの中での立場から言い出しにくいこともある。しかし、それらがデータで示すことができれば、管理者側でも問題を正しく把握でき、問題を改善しようと正しい意思決定ができるというわけである。その結果、荷待ち時間を減らすことができれば、トラックドライバーにとっても非常に有益だ。
<新サービス 高精度GPSによる時間の可視化>

またOne Streamの「トラック貨物受付システム」は、トラックが倉庫に着いた時の受付ができ、待機や適切なバースに自動で割り当て、呼び込みも自動で行うというもの。バースの空き状況などを自動的に判断してドライバーに指示することができる。さらに現場作業者との連携、作業履歴の登録、事務所との情報共有、コンテナ貨物との連携ができる点がメリットという。
一般的なバース管理システムの場合、カメラで確認したり、タブレットなどでドライバーに操作させるものもあるが、カメラなどでは設置に制限があったり、運用が変わった時に追従が難しい。またドライバーに操作させるのでは、余計な負担を増やすことにもなり、また正確に測定できない可能性がある。
注意したいのは、このシステムは一般的なバース予約システムではないこと。バース予約システムは物流拠点によって向き不向きがあり、「現状のバース予約システムが適している事業者さんは、そのシステムを使い続けることが良いと思います」という。One Streamのトラック貨物受付システムが主対象としているのは、トラックのバースへの割り当てだけではなく、貨物の受け入れを現場と連携したい現場や、設備や人が限られており、バース予約システムを無理に使っているような物流施設だという。
「このトラック貨物受付システムは、一般的なバース予約システムに向いていない物流施設に合わせて作ったもので、トラック到着時の受付から、現場への呼び込み、貨物の荷役、トラックの出発までを簡略化するもの。特に、バース呼び込みはOne Streamが自動で行います。One Streamは空いているバースを作業状態まで把握して、貨物情報とマッチングさせることで、どこが今空いていて、どういう順番に入れるかということまで考えて指示を出すことができるので、物流施設の負荷も軽減することができます」。
足立氏は、トラックの受付、バース呼び込みについて、コンテナ輸送での経験を活かすことができるという。「多くのコンテナを扱う物流施設は、取り扱う貨物も作業場所もドライバーも変わるところも多い。加えてコンテナ輸送は貿易の一部であるため、物流情報との連携が不可欠で、港側の制約も多い。そのため『いま』、『その時』の判断が非常に重要になる。一方でトラックの受付は倉庫側にある程度のゆとりがあるため、『範囲をもった時間帯』での判断で対応できる。我々はその不規則で難易度が高いコンテナへの対応から始まっているので、その知見を応用することができました」。
ただトラック輸送の現場では、貨物情報が統一されにくいということが課題だという。「トラックの場合、その手配のルートが複数あるため、同じ貨物でも輸送業者が異なることなどはよくあることです。トラックを受け入れているのはよくありますが、本来は貨物を正しく受け入れることが目的なので、ここの整合が大きな課題なのはどの物流業者にとっても同じ認識だと思います。そして受け入れた貨物は、ある単位に再びまとめられてどこかで出荷されていく。私たちはコンテナ貨物との情報連動はできるようになりました。無理に全ての情報を統一する必要はないですが、共通化できる部分も沢山あります。そうした点を横断的に把握し、繋いでいくことが、私たちの役割なのだと思います」。
■力ある現場がデータを活用すれば物流はもっと効率化できる
物流の改善には、荷待ちや荷役時間の短縮をしていくことが大切だと言われている。新物効法でもこうした取り組みを進めることが事業者の努力義務として示されている。これを実現していくには、情報を一元的なデータにすることが必要だと足立氏は話す。
「例えば作業時間といっても、どこからが開始でどこが終了か。あのシステムでは10分、こちらのシステムでは15分、ではそのデータを有効活用できない。その計測時間が何を意味するのか考え始めることが重要だと思います」という。さすがこの辺りは、車両エンジニアらしい感覚だ。「システムを扱う方からすると、測定の仕方が違うのが一番困る。今後、測定法、測定点を定義付けていきたい」という。
しかし、最も重要なことは、計測することが目的ではないということだ。「法律を守るために時間を計測することで満足してしまう事業者さんも少なくない。でも、計測したデータを使って、効率化していくことが本来の目的なのです」。
このため物流事業者には、データの活用を訴えている。「貨物情報などもデータとして持つことができれば、もっと物流情報として貴重なものになってくる。それをきちんと解析する部門を作るとか、人を育てるとか、そういうアプローチをしませんか、という話をしています」。視野を広げ、その次をやろう、というモチベーションを持つことが一番大事だという。
最後に足立氏は、トラック物流業界の今後について、人手がますます不足していく可能性がある、状況に応じた変化が求められる場面も出てくるだろう、と危機感を持っている。「ドライバーさんの働き方も変わってきている。昔みたいに長時間働いて収入を増やすというスタイルではなく、働きやすい職場を求めてトラック業界に入って来る方もいる。外国人ドライバーの方も徐々に増えてきている。これまでのようなコミュニケーションの仕方ではなく、スマホやアプリなどのシステムを使うことはドライバーの働き方の改善にもつながるので、私たちも寄与していきたい」。
輸送という仕事をもっと楽しくできるものを作り、それが外部からも評価できるようにする。「それを現場とデータで実現していきたい」と語る足立氏。物流業界の維持という大きな課題の解決に向け、One Streamの今後の進化にも期待されるところである。
(取材・文)鞍智誉章
■足立聡史 One Stream代表 プロフィール
2006年にトヨタ自動車へ入社以来、サスペンション設計に従事し、現場での知見をベースに数多くの図面を手がけ車両を世に送り出した。10数年の経験を経て先行開発に携わり、世界初となるパワートレインの実装を主導、複数の特許も取得。幼少期からものづくりが好きで、2020年に「ゼロから何かを創りたい」という想いで新規事業に参画。企画段階から物流の現場課題に向き合い、その危機感からなんとか現場を助けたいと思い、システムを開発し2024年に正式リリース。現在は全国の物流”仲間”とともに明るい未来に向けた物流を目指し取り組んでいる。
■トヨタ自動車 One Stream(https://www.toyota.co.jp/onestream/)
トラック最前線/商用車の足まわりを変えるカヤバの次世代サスペンションシステム「ActRide」