
商用車業界はいま、電動化やカーボンニュートラル、自動運転、コネクテッド技術など、かつてない変革の時代を迎えている。その渦中で2026年4月、新たな持株会社「ARCHION」が発足し、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは、それぞれ新しいCEOのもとで歩み始めた。企業文化も歩んできた歴史も異なる両社だが、トップが描く未来にはどのような違いがあり、どのような共通点があるのだろうか。本稿では、両社で開催されたラウンドテーブルを通じて、新CEO二人の言葉や考え方を比較しながら、「変えていくべきもの」と「変えてはいけないもの」という視点で、その経営哲学を読み解く。そこから見えてきたのは、統合によって「同じになる」ことではなく、それぞれの強みを生かしながら新たな価値を創造しようとする、ARCHIONの未来像だった。
取材・文/山城利公(モータージャーナリスト)
「Listen・Learn・Deliver(傾聴・学習・実行)」
日野自動車のサティヤカーム・アーリャCEOが、新たな経営の第一声として掲げた言葉である。
派手な成長戦略でもなければ、大胆な数値目標でもない。まず現場に耳を傾け、学び、そのうえで実行する――。認証問題を経て再生への歩みを進める日野にとって、この言葉は単なるスローガンではなく、新しい企業文化を築くための決意表明のように聞こえた。
その数日後、三菱ふそうトラック・バスでも新CEOによるラウンドテーブルが開催された。
こちらで繰り返し語られたのは、「Customer First(お客様第一)」という考え方だった。
お客様の近くに立ち、市場の変化を見極め、より速く行動する。世界各国で事業を率いてきた経験を持つフランツィスカ・クスマノCEOらしい、実践的なメッセージである。
一見すると、二人の言葉はまったく異なる。
一人は「傾聴」から始め、もう一人は「顧客」から始める。
しかし、両社のラウンドテーブルに参加し、二人の経営者の言葉に耳を傾けると、その根底には驚くほど共通した思想が流れていた。
変えるべきものは変える。しかし、決して変えてはいけないものがある。
それは、商用車メーカーとして長年築き上げてきた品質と信頼である。
2026年4月、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスは、新たな持株会社ARCHIONのもとで新たな一歩を踏み出した。
商用車業界は、電動化やカーボンニュートラル、自動運転、コネクテッド技術など、かつてない変革期を迎えている。こうした時代に、二人の新CEOは何を変え、何を守ろうとしているのか。
両社のラウンドテーブルを通して見えてきたのは、異なるアプローチを取りながらも、「現場」を起点に未来を描こうとする二人のリーダーの姿だった。
日野を知ることから始めた100日」
「Listen・Learn・Deliver」に込めた再生への決意
「まずは日野を知ることから始めたい。」
そんな思いは、この100日間の行動の端々から伝わってきた。
4月1日に日野自動車のCEOへ就任したサティヤカーム・アーリャ氏は、就任後最初のラウンドテーブルで「Listen・Learn・Deliver(傾聴・学習・実行)」という3つの言葉を掲げた。
派手な改革を打ち出すのではなく、まず耳を傾けることから始める――。
その姿勢は、認証問題を経験した日野自動車の現在を考えれば、極めて象徴的なメッセージだった。

日野自動車 サティヤカーム・アーリャCEO
アーリャCEOは30年以上にわたり自動車業界で経験を積み、そのキャリアの半分以上を商用車ビジネスで歩んできた。スズキ・インディアを皮切りに、ルノー、そして三菱ふそうでも要職を歴任。開発畑ではなく、調達やサプライチェーン、カスタマーサービスなど事業運営を支える分野でキャリアを重ね、インドでは赤字事業の再建を成功させた実績も持つ。
こうした経歴だけを見れば、「改革請負人」という印象を受けるかもしれない。
しかし、実際に本人の話を聞いて強く感じたのは、その肩書ではなく、「現場に学ぶ姿勢」だった。就任から約100日間で、全国の販売会社や工場、国内外の主要市場を精力的に訪問。社員や販売会社、そして顧客との対話を重ね、自らの第一印象として「90年以上にわたる歴史」「職人技」「高い専門性」「強固な販売ネットワーク」、そして何より「真面目で誠実な社員たち」の存在を挙げた。
印象的だったのは、その順番である。
アーリャCEOは、会社の課題や改革の必要性を語る前に、まず日野が長年培ってきた強みを丁寧に語った。
それは、単なる美辞麗句ではない。
長い歴史の中で築き上げられた品質や耐久性、販売会社との信頼関係、現場で受け継がれてきた技術。それらこそが、これからの日野を支える土台になると考えているからだ。
もちろん、その土台の上に新しい企業文化を築く必要性についても率直に語った。
認証問題を契機として進めてきた企業文化改革は、まだ道半ばであり、これからさらに次のステージへ進めなければならない。そのために重視するのが、現場との対話であり、データや事実に基づく意思決定である。
「オフィスの中で考えるのではなく、現場へ行く。」
この言葉は、ラウンドテーブル全体を通して繰り返し語られた。
その一方で、アーリャCEOの人柄を最もよく表していたのが、長年続けているヨガと瞑想の話だった。
毎朝約1時間半をかけて心身を整える習慣は、「思考の質を高め、さまざまな状況でも冷静さとバランスを保つため」だという。その穏やかな語り口からは、感情に流されることなく、本質を見極めながら経営に向き合おうとする姿勢がうかがえた。
さらに印象的だったのが、日本の伝統技法「金継ぎ」の話である。
割れたり欠けたりした器を漆と金で修復し、傷跡さえも価値として受け入れる金継ぎを例に挙げながら、アーリャCEOは、これからの日野が目指す姿を語った。
単に元へ戻すのではない。
以前よりも良い会社になる。
その言葉は、認証問題からの再生を目指す日野自動車の決意を象徴する比喩として、強く印象に残った。
ラウンドテーブルの終盤、筆者はアーリャCEOに一つの質問を投げかけた。
「CEOとして『変えていくべきもの』と、『変えてはいけないもの』を一つずつ教えてください。」
アーリャCEOは笑顔で「とても良い質問です」と応じ、少し考えてから答え始めた。
変えていくべきものは、量を追う成長から、価値を重視する成長への転換であるという。市場や商品を見極め、収益性を高めながら持続可能な成長を実現していく考えを示した。
一方で、決して変えてはならないものとして挙げたのが、「品質」「耐久性」、そして長年築き上げてきた顧客との信頼だった。
この答えを聞きながら、筆者は「Listen・Learn・Deliver」という最初の言葉の意味を改めて理解した。
変革を急ぐのではない。
まず現場に足を運び、自社が本来持つ価値を見つめ直したうえで、未来へ向けた改革を進める。
アーリャCEOが描く日野の再生とは、過去を否定することではなく、積み重ねてきた歴史を礎に、”以前よりも良い日野”を築くことなのだろう。

アーリャCEOと筆者(左)
「お客様の近くに答えはある」
Customer Firstを貫くクスマノCEOの現場主義
一方、三菱ふそうトラック・バスのフランツィスカ・クスマノCEOは、エンジニアとしてキャリアをスタートし、開発や製品マネジメントを経て経営の道を歩んできた技術者出身の経営者である。そうした技術者としての視点を背景に、プレゼンテーションを通して繰り返し語られたのが、「Customer First(お客様第一)」という言葉だった。もっとも、それは企業理念を紹介するためのスローガンではなかった。

三菱ふそうトラック・バス フランツィスカ・クスマノCEO
就任から約100日。クスマノCEOは日本国内だけでなく、インドネシア、オーストラリアなど三菱ふそうにとって重要な市場を積極的に訪れ、自ら顧客や販売会社と対話を重ねてきた。
プレゼンテーションでは、各地で撮影した写真が次々と映し出される。
大型物流事業者との意見交換、販売会社のスタッフとの議論、ドライバーとの対話――。
その一枚一枚から伝わってきたのは、「机上で戦略を考えるよりも、まず現場へ行く」という強い意思だった。
興味深いのは、アーリャCEOもまた「現場へ行くこと」の重要性を繰り返し語っていたことだ。
しかし、両者にはわずかな違いがある。
アーリャCEOが会社の内側に入り、社員や組織を見つめることで再生への道筋を描こうとしたのに対し、クスマノCEOは顧客や市場の変化を起点に、三菱ふそうの未来を考えていた。
その象徴が、「New Reality(新しい現実)」という言葉である。
地政学リスク、商用車市場の競争激化、脱炭素への対応、デジタル化、そしてARCHIONの発足――。
これまでとは異なる環境の中で企業が生き残るには、従来の成功体験だけでは十分ではない。だからこそ、クスマノCEOは繰り返し「スピード」という言葉を口にした。
市場の変化に素早く対応すること。
お客様の声をいち早く商品やサービスへ反映すること。
そして、ARCHIONという新たな体制を生かしながら、技術開発や投資を加速させること。
その考え方は、「規模のメリット」を語るためではない。
「お客様へより早く価値を届けるため」に、統合という新しい仕組みをどう生かすか。その一点に集約されていた。
ラウンドテーブルでは、筆者からARCHIONの成功に向け、三菱ふそうとして『変えていくべきものと、変えてはいけないもの』は何かという質問を投げかけた。
クスマノCEOはまず、「非常に重要な質問です」と応じたうえで、変えていくべきものとして真っ先に挙げたのがスピードだった。
競争環境が激しく変化する今、意思決定も、開発も、行動も、これまで以上に速くならなければならないという。
一方で、変えてはならないものとして語ったのは、三菱ふそうが長年培ってきたブランドの価値であり、世界各国で築いてきた販売・サービスネットワーク、そしてグローバルな人材である。
さらにARCHIONについても、「すべてを同じにするわけではない」と明言したことが印象的だった。
開発や調達、将来技術では協力を進める一方、ブランドや販売ネットワーク、顧客との接点は、それぞれの強みとして維持していく。
統合とは、一方が他方に合わせることではない。
互いの強みを持ち寄り、新たな価値を生み出すための基盤なのである。
その考え方は、三菱ふそうだけでなく、これからのARCHION全体の方向性を示すメッセージとして受け止めることができた。

クスマノCEOと筆者(右)
二人のCEOの言葉から見えてきたもの
――「変革」の先にある共通の経営哲学
二つのラウンドテーブルを続けて取材しながら、筆者は何度も「この二人は異なる言葉を使いながら、実は同じ未来を見ているのではないか」と感じた。
日野自動車のアーリャCEOは「Listen・Learn・Deliver(傾聴・学習・実行)」を掲げ、社員や販売会社、顧客の声に耳を傾けることから経営を始めた。
一方、三菱ふそうのクスマノCEOは「Customer First(お客様第一)」を軸に、日本だけでなく海外の主要市場を訪れ、自ら顧客や販売会社との対話を重ねてきた。
一見すると、そのアプローチは異なる。しかし、その本質は驚くほど近い。
二人とも、「答えは現場にある」と考えているのである。
これは商用車メーカーの経営者だからこその視点なのかもしれない。トラックやバスは、人や荷物を確実に運び続けることが使命であり、お客様にとっては事業そのものを支える「仕事の道具」である。だからこそ、机上の理論だけでは、本当に必要とされる商品やサービスは生まれない。
実際、両CEOとも「現場」という言葉を繰り返し口にしていた。
アーリャCEOは、全国の販売会社や工場、国内外の主要市場を訪れ、社員や顧客との対話を通じて日野の強みと課題を見つめ直した。
一方のクスマノCEOは、日本をはじめインドネシアやオーストラリアなど重要市場へ足を運び、物流事業者や販売会社から直接話を聞くことに多くの時間を費やした。
会社の内側から組織を見つめるアーリャCEO。市場やお客様から会社を見つめるクスマノCEO。入り口こそ異なるが、「現場を起点に経営を考える」という姿勢は、二人に共通するリーダー像だった。
もう一つ印象に残ったのは、人材に対する考え方である。
アーリャCEOは、90年以上の歴史の中で培われた技術や知見、そして誠実で真面目な社員こそ日野最大の財産だと語った。一方のクスマノCEOも、世界各地で経験を積んだ多様な人材やグローバルな組織力を、三菱ふそうの競争力の源泉として繰り返し挙げた。
その違いは、組織の構成にも垣間見ることができる。
ARCHIONのコーポレートガバナンス報告書(2026年3月末時点)によると、日野自動車では管理職に占める中途採用者比率が42.0%、女性管理職比率は2.8%である。一方、三菱ふそうでは外国人管理職比率が23.0%、女性管理職比率は7.5%となっている。
もちろん、これらの数字だけで企業文化や経営力を語ることはできない。
三菱ふそうは長年にわたりダイムラー・トラックグループの一員としてグローバルな経営体制を築いてきた歴史があり、その歩みが現在の人材構成にも反映されていると考えられる。一方の日野も、近年は中途採用人材の登用を積極的に進め、多様な知見を取り入れながら組織改革を進めている。
両社が歩んできた歴史は異なる。
しかし、二人のCEOが目指しているのは、「人の力を最大限に引き出せる組織づくり」という点で共通しているように感じられた。
もう一つ印象的だったのは、ARCHIONという新たな枠組みに対する捉え方である。
経営統合という言葉から、多くの人が思い浮かべるのは、「合理化」や「コスト削減」かもしれない。しかし、今回の二つのラウンドテーブルで、そのような話が前面に出ることはほとんどなかった。
両CEOが繰り返し語ったのは、「シナジー」「スピード」「技術開発」「未来への投資」といった前向きなキーワードである。
商用車業界はいま、電動化やカーボンニュートラル、自動運転、コネクテッドサービス、AI活用など、かつてない変革期を迎えている。一社だけで、そのすべてに対応することは容易ではない。だからこそ、互いの強みを持ち寄り、新たな価値を生み出すためのARCHIONという枠組みが生まれた。
もちろん、それは両ブランドを同じものにするという意味ではない。
クスマノCEOは「ブランドや販売ネットワークは、それぞれの強みとして維持していく」と語り、アーリャCEOもまた、日野が長年培ってきた品質や信頼を次の時代へ受け継ぐ考えを明確に示した。
変革とは、過去を否定することではない。
受け継ぐべき価値を守りながら、新しい時代に合わせて進化していくこと。
二人のCEOへの取材を通じて、筆者が最も強く感じたのは、ARCHIONが目指しているのは「違いをなくすこと」ではなく、「違いを生かすこと」だという点である。
会社の成り立ちも、企業文化も、人材構成も異なる。だからこそ、それぞれが培ってきた強みを持ち寄ることで、新たな価値を生み出すことができる。その意味で、ARCHIONは統合のゴールではなく、新しい商用車メーカーの姿を模索するためのスタートラインなのだろう。
「変えていくべきもの」と「変えてはいけないもの」
二人の新CEOが示した、未来への答え
二つのラウンドテーブルを取材する中で、筆者の頭には一つの問いがあった。
企業は変わらなければ生き残れない。一方で、変えてはならないものもある。
では、新たな時代を託された二人の新CEOは、その境界線をどこに引いているのだろうか。
そこで筆者は、両CEOにほぼ同じ質問を投げかけた。
「CEOとして、変えていくべきものと、変えてはいけないものを一つずつ教えてください。」
興味深かったのは、二人の反応である。
アーリャCEOは笑顔で、「Very good question」と応じた。そして数日後、同じ趣旨の質問をクスマノCEOに投げ掛けると、こちらも「Nice question」と笑みを浮かべた。
偶然かもしれない。
しかし、この問いは経営者にとって、自らの哲学を最も端的に表現できるテーマだったのだろう。
まず、アーリャCEOが挙げた「変えていくべきもの」は、量を追う成長から、価値を重視する成長への転換だった。
販売台数だけを追い求めるのではなく、市場や商品を見極め、収益性を高めながら持続可能な成長を目指す。
その言葉からは、「どれだけ売るか」ではなく、「どのような価値を提供するか」を重視する経営への転換が読み取れた。
一方、「変えてはいけないもの」として真っ先に挙げたのは、日野が長年培ってきた品質、耐久性、そしてお客様との信頼である。品質や耐久性は数値だけでは測れない。
しかし、それこそが長年にわたり物流事業者やバス事業者から選ばれ続けてきた理由であり、日野ブランドの礎でもある。
認証問題を経験した今だからこそ、その価値を次の世代へ確実につないでいく――。アーリャCEOの言葉には、その強い決意が込められていた。

一方、クスマノCEOが「変えていくべきもの」として挙げたのは、スピードだった。
市場環境は急速に変化し、競争も激しさを増している。だからこそ、意思決定も、商品開発も、組織そのものも、これまで以上のスピードが求められるという。
ただし、そのスピードは単なる効率化ではない。
Customer Firstの考え方のもと、お客様へより早く価値を届けるためのスピードである。
一方で、「変えてはいけないもの」として語ったのは、三菱ふそうが長年築き上げてきたブランドの価値、お客様との信頼、そしてグローバルな販売・サービスネットワークだった。
さらに、ARCHIONの発足後も、「すべてを同じにするわけではない」と明言したことが印象的だった。
開発や調達、次世代技術では協力を深める。しかし、それぞれのブランドが培ってきた価値や、お客様との関係は守り続ける。
統合とは、一方が他方に合わせることではなく、それぞれの強みを生かして新たな価値を生み出すことだという考えである。
二人の答えを並べると、変えていく対象は異なる。アーリャCEOは「価値ある成長」を語り、クスマノCEOは「スピード」を語った。
しかし、その目的は共通していた。
お客様へ、これまで以上の価値を届けること。
そして、「変えてはいけないもの」として二人が挙げたのも、表現こそ違うものの、品質やブランド、お客様との信頼という、商用車メーカーの根幹を支える価値だった。
興味深いのは、二人とも「変革」そのものを目的にはしていないことである。
変革は、信頼を守り続けるための手段であり、お客様へより大きな価値を届けるための手段である。
だからこそ、アーリャCEOが語った「金継ぎ」という言葉も、クスマノCEOが繰り返した「Customer First」という言葉も、最終的には同じ場所へたどり着く。
傷を隠すのではなく、そこから学び、以前より強い組織へ成長すること。そして、お客様に寄り添い続けること。
二人が示した答えは異なって見えながら、その根底には、商用車メーカーとして受け継いできた価値を未来へつないでいこうとする共通の経営哲学が流れていた。
新たな一歩、その先にあるもの
アーリャCEOは調達や事業運営を中心にキャリアを重ね、組織を支える視点を培ってきた。一方、エンジニア出身のクスマノCEOは、開発や製品マネジメントを経て、市場や顧客に向き合う姿勢を築いてきた。
アーリャCEOは「Listen・Learn・Deliver」を掲げ、まず組織の声に耳を傾けることから変革の道を描く。一方、クスマノCEOは「Customer First」を軸に、市場や顧客の変化を起点とした変革を進めようとしている。
アプローチは異なる。
しかし、その根底に流れていたのは、「変えるべきものは変える。守るべきものは守る」という、商用車メーカーとしての揺るぎない信念だった。
品質へのこだわり、お客様との信頼、そして現場を大切にする姿勢。それらは、時代が変わっても失われてはならない価値である。
一方で、電動化、カーボンニュートラル、自動運転、コネクテッドサービス、AI活用など、商用車業界を取り巻く環境は大きく変化している。その変化に対応するためには、組織も意思決定も、これまで以上の柔軟さとスピードが求められる。
ARCHIONの誕生は、そうした変革に向けた一つの答えなのだろう。
今回の取材を通じて印象的だったのは、両CEOとも「統合」を目的として語るのではなく、その先にある「お客様への価値」を見据えていたことだ。
開発や技術では協力しながらも、それぞれのブランドが長年培ってきた品質や信頼、企業文化を大切にする。その姿勢からは、「違いをなくす」のではなく、「違いを生かす」というARCHIONの方向性が見えてきた。
二人のCEOが描く未来は、決して同じではない。しかし、その目指す先には共通する景色がある。
現場に学び、人を大切にし、お客様に寄り添いながら、商用車メーカーとしての価値を次の時代へつないでいくこと。
ARCHIONという新たな一歩は、統合のゴールではなく、新しい歴史の始まりである。
その未来を、これからも現場で見届けていきたい。
【 取材・文:山城利公(やましろ・としまさ) 】
1963年東京都生まれ。モータージャーナリスト/企業コラボレーション・コーディネーター。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
幹線輸送トレーラの運行乗務員として約20年間、200万km(地球約50周分)にわたり無事故運行を継続。商用車技術や物流業界に精通し、実体験と現場視点を生かした取材・執筆を行う。近年は商用車関連の技術評価や実証プロジェクトにも参画し、企業・研究機関・メディアを結ぶコーディネートにも携わっている。
保有資格:大型けん引免許(ダブル連結トラック〈SF25〉運転資格保有)/自動車整備士(国家資格)/整備管理者(選任資格保有)/国内競技運転者許可証A級(JAF公認)/JAF公認審判員ライセンス(コースA2・技術A2)/フォークリフト運転技能講習修了
トラック最前線/2026年 商用車再編時代の現場論【後編】いすゞ×UD統合時代へ―大型商用車は“運ぶ機械”からどう変わるのか