トラック最前線/公道試乗で体感した、いすゞ「エルフミオ」の実力
2024年12月20日 17:48 / トラック最前線
「だれでもトラック」をキャッチフレーズに、いすゞ自動車が2024年7月に発売した「エルフミオ」。AT限定普通免許でも運転可能なことから、ドライバー不足に悩む物流業界にとって、大いに期待される1台だ。今回はこのエルフミオを公道で試乗。その実力をチェックしてみた。(取材日:12月5日)
若者が運転できる唯一のディーゼルトラック
ドライバー不足が大きな課題となっている物流業界。そのような背景から注目を集めているのが、いすゞが7月に発売した小型トラック「エルフミオ」だ。
キャッチフレーズは「だれでもトラック」。最大の特徴は、最大積載量1.3トンのトラックながら、AT限定の普通免許でも運転できることである。
<GVW3.5トン以下、AT車のみの設定なので、AT限定普通免許で運転できる>

2017年3月の免許制度改正以降に取得した普通免許では、車両総重量(GVW)3.5トンを超える「エルフ」1.5トンも運転できなくなった。結果として若者が運転できるトラックは、軽トラックを除けばトヨタ「ダイナ」1トンのガソリン車、日野の小型EVトラック「デュトロZ EV」の2車種しかない状態になってしまった。
ちなみに「ダイナ」1トン車にはディーゼルもあるが、これはGVW3.5トンを超えるため普通免許では運転できない。
つまり、若年ドライバーが運転出来るトラックは、燃料コストが割高でトルクも細いガソリントラックと、事実上宅配特化型のEVトラックしか選択肢がない、というのが昨年までの状況だったわけである。
このため、普通免許で運転できるディーゼルトラックの登場が待望されていたのだが、そこに登場したのが「エルフミオ」というわけである。
初心者ドライバーにも優しいキャビン
エルフミオは、このような背景から登場しただけに、トラックに不慣れなドライバーでも運転しやすいように配慮されている。
キャブ形状や基本的なプラットフォームはエルフと共通で、車両寸法も標準の仕様で全長4690×全幅1695×全高1960mmと同じだ。大きく異なるのはパワートレーンで、3リッター「4JZ1」エンジン+9速デュアルクラッチ「ISIM」を搭載するエルフに対し、エルフミオは1.9リッター「RZ4E」エンジン+6速ATを搭載。なおエルフはMTも設定しているが、エルフミオは全車ATのみの設定である。また足回りも軽量化しており、3.5トンを切る車両総重量を実現している。
<トランスミッションは6速ATのみ。MTモードも備えるのでマニュアルライクに走ることも可能だ>

まず特筆できるのは、乗り降りのしやすさとシートポジションの自由度の高さだ。大きく開くドアを開けると丁度いい高さにグリップがあり、小柄なドライバーでも乗り込みやすい。またシートも薄型化されたことで座りやすい。車両の性格上、短時間で乗り降りを繰り返すことも多いと想像されるが、ストレスを感じることはないだろう。
ステアリングにはチルト&テレスコ機構も装備され、またステアリングそのものも小径のものが採用されているので、体格に合わせたシートポジションとすることができる。膝周りの余裕も大きく、広い頭上空間も合わせ快適だ。前方はもちろん、左右側方の視界も広いので、安心して運転に集中できる。
<広く開放感のあるキャビン内。基本的なレイアウトは「エルフ」と同一だが、細部の快適性が高められている>

乗用車ライクで心地よい走り
試乗車はシングルキャブのフルフラットローで、500kgの積荷を積載。
実際に走らせてみて、驚かされたのが静粛性の高さと振動の少なさだ。アイドリング時はもちろん、加速時も気になる音や振動がなく、快適な乗り心地である。いい意味でトラックらしくなく、乗用車に近い感覚で運転することができる。特に発進から時速70キロ辺りまでの速度域でのスムーズな走りが印象的だ。
搭載する1.9Lエンジンは、最高出力88kW(120ps)、最大トルク320Nmを発揮し、1トン超の荷物を積載して街中を走行するには必要十分。決してパワフルというわけではないが、パワーの出方がマイルドで扱いやすい。アクセルの踏み加減に神経を使う必要がないので、楽に運転することができ、初心者ドライバーでも安心して運転できるだろう。またATはマニュアルモードも備えているので、坂道などでトルクが必要な時でも力不足を感じることはなさそうだ。
ステアリングへの反応もクセがなく、この点でも運転しやすい。やや軽めに設定されているので、狭い交差点でも軽く曲がることができる。これなら女性やシニアでも操作しやすいだろう。力を入れる必要はなく、ごく自然な感覚でステアリングを操作できるので、これも快適に乗れる理由だ。さらに、最小回転半径が軽自動車並みの4.4mということも、街中で扱いやすいポイントといえる。
一方、少し気になったのは、荒れた路面での乗り心地。連続する小さな入力は巧みに吸収してくれるので、フラットな路面では乗用車を思わせる滑らかな乗り心地なのだが、バンプが連続する箇所や轍が深くえぐれているような路面では、突き上げを強めに感じ、小型トラックらしさが顔を出す。この辺りがもう少し改善できると、より乗用車に近い感覚で乗ることができるだろう。今後の熟成にも期待されるところである。
発売4か月で受注1500台超の好調スタート
ドライバーの裾野を広げて社会課題を解決すべく誕生したエルフミオだが、7月30日の発売以来、11月末時点で受注台数は1500台を超えたという。昨年の1.5トンクラスの販売台数は約1700台だったことから見ると、わずか4か月ほどでほぼ同等の受注を獲得したことになり、非常に好調なスタートを切ったといえるだろう。
ちなみに受注1500台のうち、これまでいすゞと付き合いがなかった新規客が約2割を占めている。いすゞ自動車のGR国内事業推進部の宇野 博部長によると、2トン以上のトラックの場合は大半が既納客のリピートだというから、エルフミオの新規客の割合は非常に高い。いすゞとしても、狙い通り新規需要の開拓に成功したといえそうだ。
ただ新規客の動きについては、やや想定外だったという。「2トントラックなどからのサイズダウンが大半を占めるものと想定していたが、実際には軽トラックや1BOXからのサイズアップが多かった」(宇野氏)という。本当はトラックを使いたいけれど、免許の都合で軽トラや1BOXを選択せざるを得なかった、という事業者が予想以上に多いようである。
また導入を決めた理由としては、新規客では、業務効率化として採用した例もあったという。社内規定で乗車時に免許の種別確認を必須としている事業者でも「誰でも乗れる」エルフミオなら、その確認が不要というわけだ。
この他、既納客からは「普通免許・AT限定免許ですぐトラックに乗れる、とアピールすることで採用活動が優位になる」といった声や、レンタカー事業者からは、AT限定普通免許の利用者に貸し出せるから、といった声が聞かれたという。なお、現時点では8社のレンタカー会社から合計50台ほど受注しているとのことだった。
従来と大きく異なるオンライン販売での受注内容
いすゞでは、エルフミオの販売にあたり、通常の販売チャネルに加え、「ELFmioストア」と呼ぶオンラインでの販売もスタートさせた。見積作成から商談、車両契約まで販売店に足を運ぶことなく、スマホやタブレット上だけでエルフミオを購入することができる。
これはいすゞとしても、またトラック業界としても新たな試みだったが、こちらもスタートから好調に推移。月間10万件ものサイトアクセス数があり、見積作成は3000件/月、受注も10台/月ほどあるという。受注台数そのものはまだ多いとはいえないものの、リース総額500万円を超える車両の購入が、オンラインだけでコンスタントに毎月2ケタの台数が販売できているということで、いすゞとしても手応えを感じているという。
そして興味深いのは、オンラインでの受注内容が販売店での通常の購入スタイルと大きく異なっていることだ。
まず新規/リピート比率は、8割が新規。全体の受注は8割が既納客のリピートだから、オンラインだけでみるとまったく逆転していることになる。また受注エリアは東京、大阪など大都市圏が75%を占める。通常の2トントラックの場合は、大都市と地方が半々なので、これも少し異なっている。
さらに車両の選択も大きく異なる。トラックの場合、エルフに限らずボディカラーは「白」が大半を占めるのだが、ELFmioストアでは専用色の「ペールブルー」が4割を占める。ちなみにエルフの場合、ブルー系は3%しか選択されないという。
キャブの人気も大きく異なる。エルフミオはエルフ同様、シングルキャブ、スペースキャブ、ダブルキャブの3タイプをラインアップしているが、ELFmioストアでは6割がスペースキャブを選択。エルフの場合、スペースキャブは4%程度しかなく、圧倒的にシングルキャブが多いので、まったく異なる結果となっている。
平均リース期間は、エルフの平均67か月に対し、ELFmioストアでは103か月と長い。ただ、この要因としては「G.O.A.T.プラン」と呼ぶELFmioストア専用のメンテナンスリースプランが設定されていることもあるだろう。最長9年のリースで、オイル、バッテリーなどをメンテナンス代や税金など維持費も込みで毎月定額、一定期間経過後は解約金無しで車両返却も可、さらに9年の自動車保険も用意されているのだから、選択するユーザーが多いのも納得できる。この辺りも従来のトラックより、乗用車に近づいているようだ。
GVW3.5トン未満のディーゼルトラックは空白地帯だっただけに、いすゞとしても新たなチャレンジとなった「エルフミオ」。しかし、市場の反応は予想をはるかに超え、新たなトラックユーザーの掘り起こしにもつながっている。今後のトラック物流を支える力強い戦力として、今後の動きにも注目していきたい。(鞍智誉章)
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