トラック最前線/脱炭素目標達成に向けたヤマト運輸の取り組み

2025年05月30日 09:56 / トラック最前線

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今や社会の要請でもある脱炭素化。政府も2030年度の温室効果ガス排出量46%削減を目標に掲げているが、運送業界全体の取り組みは難航しているのが実情である。しかし、その中で既に多くのEVを導入・運行するなど、目標達成に向けて邁進しているのがヤマト運輸だ。今回はその取り組みや今後の展開について、ヤマト運輸グリーンイノベーション開発部の上野 公部長と、同部グリーンイノベーション戦略課の原 啓将課長に伺った。(写真右:上野部長、左:原課長)

「脱炭素」は運送業界の大きな課題

地球温暖化への対策として、世界全体で脱炭素化、つまり温室効果ガスの削減に向けて取り組みが進められている。もちろん日本も例外ではなく、政府は2030年度の温室効果ガス排出量について、2013年度比で46%削減を目標に掲げている。さらに2050年には、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指している。

その中で、運送業界に求められている大きな課題の一つが「車両の電動化」といえるだろう。

というのも、トラック輸送は国内貨物輸送の約8割を占めているだけに、CO2など温室効果ガスの排出量が多いからだ。国交省によると国内全体のCO2排出量のうち、約7%をトラックが占めているという。そのため、国内の温室効果ガス削減の目標を実現するには、運送業界の取り組みが重要になるというわけである。

具体的には、走行時にCO2を排出しないEV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)などの導入である。政府は新車販売される商用小型車について、2030年までに電動車20~30%、2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指すとしており、商用大型車についても2020年代に5000台の先行導入を目標としている。これらの導入が目標通りに進めば、運送業界のCO2排出量は一気に減少することになる。

しかし、残念ながら業界全体で見ると、EVやFCV の導入割合は極めて低いのが現状だ。

業界の脱炭素化を否定する人はいないが、実際に取り組むとなると、その動きは鈍い。もちろん、政府でも運輸部門の温室効果ガス削減が難しいことは承知しており、国全体の2030年度の温室効果ガス排出量の削減目標46%に対し、運輸部門については35%とハードルを下げている。

が、それでもなお厳しい数字であるのが実態だ。このままでは社会の要請に応えることができず、物流の維持という観点でも困難な状況になることも予想される。

そこで、この状況を打開すべく、取り組みを進めているのがヤマト運輸である。

2030年度には集配車両の6割がEVに

詳細を見る前に、まずヤマト運輸の目標と現状を確認しておこう。

同社が掲げる2030年度までの脱炭素目標は、2020年度比で48%減。これは政府が運輸部門に求める35%削減をはるかに超え、国全体の目標である46%削減と同水準だ。そして2050年温室効果ガス排出実質ゼロという目標も、政府が掲げる目標と同じである。

物流大手として業界を牽引する存在なだけに、その掲げる目標も高い。これには「ステークホルダーからの期待に応えるとともに、自分たちの覚悟でもあった」と上野氏は話す。

これを実現するために、まず車両については2030年度までに2万3500台のEVを導入する計画だ。現在、同社の集配車両は約4万台なので、ほぼ6割に相当することになる。

また、自社設備の屋根に設置する太陽光発電設備も2030年度までに810基導入する計画だ。加えて再エネ電力の使用率を70%まで高めること、さらにクール宅急便などで使用しているドライアイスの使用量0の運用を構築にすることも目標に掲げている。

<ヤマトグループの脱炭素目標>
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これに対して、2025年4月現在のEV導入台数は約4300台。つまり全国の集配車両のうち、既に1割以上がEVになっているというわけだ。太陽光発電設備も110基が導入済みである。さらに、数多くのEVで使用する電力と、太陽光発電した再エネ電力をうまくコントロールするエネルギーマネジメントシステム(EMS)の開発・推進も同時に進めており、目標達成に向けて着々と取り組みが進んでいるといえる。

ハードルの高いEV導入

以上のように、脱炭素目標の実現に向けたEV導入など、ヤマト運輸の取り組みはスムーズに進展しているようだ。しかし、そこに至るまでには、非常に苦労したという。

「EVを導入するには、導入の意思決定、導入計画の立案、コストの試算、運用方法の検討、そして車両や充電器設置工事の手配、補助金の活用、また導入後はメンテナンスや点検も考慮しなければいけない。すべてが未経験という状態からのスタートとなるだけに、その負担も大きかった」と上野氏は話す。

さらにEVの台数が増えれば、エネルギーマネジメントも考えなくてはならない。EVは業務終了後の夜間に充電するが、一つの営業所に多数のEVが配備されると、その充電のタイミングが問題になる。何十台ものEVが一斉に充電してしまうと電力使用量が跳ね上がり、電気代の基本料金が大きく上がってしまう。さらに、地域内の電力の需給バランスにも悪影響を及ぼす可能性さえある。

そのため、これらのコントロールや、電力の可視化、CO2排出量を測定する仕組みも必要になってくる。

そして大事なのが、導入後の検証だ。「導入した効果を数値や現場の声としてアウトプットし、世の中にしっかりと発信していく。EV導入や再エネ化を進めていくには、この一連の項目が一つも欠かせない」と上野氏はいう。

<EV導入におけるユーザーの課題>
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運送事業者が本格的にEVを導入しようとすれば、この未経験かつ膨大な作業をこなさなければならない。これがEVの普及を妨げている要因の一つといえるだろう。

多くの運送事業者にとって、そこに力を割ける余裕がないのが現状だ。しかし、それでは運送業界の脱炭素化は、いつまで経っても進まない。補助金で車両の導入コストが下がれば、それだけでEV普及に弾みがつくという簡単な話ではないのである。

EV導入を支援する「EVライフサイクルサービス」の誕生

そこでヤマト運輸が新規事業として2024年10月にスタートしたのが、「EVライフサイクルサービス」である。これは、温室効果ガス削減計画の立案から、EV・充電器の導入支援、点検・メンテナンス、エネルギーマネジメントシステムの提供、再エネ電力の供給、リース期間終了後の車両の入れ替えや廃棄までワンストップで支援するサービスだ。

<「EVライフサイクルサービス」のサービス内容>
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EV導入から運用に至るまで、何が必要で何が課題か、それをどうすれば解決できるか。ヤマト運輸はすべて経験済みだ。これまでEV導入で蓄積してきた多くのノウハウや解決策を活用すれば、これからEVを導入する運送事業者や団体が同じことに悩む必要はなくなる。EV導入の敷居も一気に下がることになる。

「脱炭素への取り組みは、自社だけが取り組めばいいという時代ではない」と上野氏は話す。社会全体の脱炭素化実現に向けて、他の企業・団体を支援し、EV導入に伴う苦労はさせない、回り道をさせない。

ちなみにヤマト運輸では集配車両が中心となるが、「EVライフサイクルサービス」では、「宅配だけではなく、様々な業界業種の方に使っていただくために、幅広い車種を提供していきたいと考えている」と原氏は話す。EV導入には、それぞれの業種・職種に合った車両であることも必要だ。環境性能がいかに高くても実際の業務に使えないのでは普及は進まない。

再エネ電力活用でEVの価値を増大させる

一方、EV導入支援と同時に取り組んでいるのが、再生可能エネルギーへのシフト推進である。

EVに供給する電力に、化石燃料由来の電力を使ってしまえば本当の意味でのCO2フリーにはならない。脱炭素実現のためにはEVだけでは不十分で、再生可能エネルギーとの組み合わせが必要となる。

そこで2025年1月に設立されたのが、再エネ電力などを提供する新会社「ヤマトエナジーマネジメント株式会社」である。この新会社の大きな特徴は、地域社会でつくられた再エネ電力の活用を目指していることだ。

<ヤマトエナジーマネジメント株式会社のイメージ>
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現在、太陽光発電や水力発電、ごみ処理発電など化石燃料を使わない発電が全国各地で行われている。しかし、需要と供給のバランスがうまく取れていないため、その再エネ電力が地域内で使い切れていない場合も少なくないという。

そこで全国に営業所があるヤマト運輸がトラックのEV化を進めていき、各営業所がその地域で発電した再エネ電力を使うようになれば、地域経済の活性化にも貢献できるというわけだ。

<ヤマト運輸 高津千年営業所>
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この一つのモデルといえるのが、ヤマト運輸の高津千年営業所(神奈川県川崎市)である。

同営業所は25台の集配車両をすべてEVとし、太陽光発電設備と蓄電池、エネルギーマネジメントシステムを導入した。太陽光と蓄電池では不足する電力は、ごみ焼却施設のボイラー発電を行っている川崎市内の発電事業者・川崎未来エナジーから市内で発電した再エネ電力の供給を受けている。

25台のEV集配車両は夜間に充電するが、一度に必要になる電力は蓄電池分では不足する。一方、ボイラー発電は昼夜を問わず発電し続けるため、夜間の電力が余ってしまう。そこでこの電力をEV集配車両の充電に使えば、川崎市内で再生可能エネルギーのサイクルが完結する。文字通りエネルギーの地産地消というわけだ。

そして、この仕組みを「EVライフサイクルサービス」のユーザーにも提供する。これにより、脱炭素化が一気に進むことになる。

次の挑戦はバッテリー交換式EVの実用化

このように、業界に先駆けてEV導入の仕組みを構築したヤマト運輸だが、実際に運用していく中で新たな課題も見えてきたという。

再生可能エネルギーの主力となるのは太陽光発電だ。しかし、太陽光パネルが発電するのは昼間だけ。夜間に充電するEVとはタイミングが合わないから、その意味では相性が良いとはいえない。そのため蓄電池などを活用するのだが、それでも「EVの台数が増えると再エネ電力が不足することもある」と原氏は話す。

そこでヤマト運輸が次の取り組みとして考えているのが、車体からバッテリーを取り外して充電できるバッテリー交換式EVだ。これならスペアのバッテリーを昼間に太陽光で充電し、夜間に車両のバッテリーを入れ替えるという使い方もできるので、太陽光を無駄なく活用でき、EVの充電時間も削減できるので、運用面においても自由度が増す。

実際にヤマト運輸では、三菱ふそうトラック・バス及び米Ample社、ENEOSホールディングスと機械式のバッテリー交換システムの実証を京都市内で実施した。また、本田技研工業と手動式のバッテリー交換システムの実証を行い、実用性を検証した。

三菱ふそうトラック・バスとの実証では、バッテリー交換式に改造した電気小型トラック「eCanter」を、集配業務に使用。京都市内に設置したAmpleのバッテリー全自動交換ステーションに、バッテリー残量が少なくなった「eCanter」が入庫すると、ロボットステーションが自動でバッテリーを交換する仕組みで、短時間で バッテリーが交換できるという。

<バッテリー交換式「eCanter」の車両とAmple社のバッテリー全自動交換ステーション>
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本田技研工業との実証では、モバイルパワーパック8本を搭載した電動パワーユニットで走行する軽EVを使用。実証では、バッテリー固定式である通常の軽EVよりも、太陽光発電による再エネ電力の活用率が高かったというから、幅広い運用が可能になりそうだ。

<交換式バッテリーを搭載した車内>
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機械式、手動式のどちらも、コストも含めてまだまだ改善すべき点はあるとはいうものの、実用化は近づいているといえる。なお現場の声としては「どちらも違和感なく使えている」というから、大いに期待できるだろう。

なお、このバッテリー交換式EVは、国土交通省でもバッテリー交換式EVの国連基準策定に向けた国際的な議論を開始するなど、実用化に向けての動きが既に世界的に始まっている。規格が定まるなどすれば、急速に普及していく可能性も高く、運送業界の脱炭素化の力強い後押しとなるかもしれない。

EV進化の原動力としても期待されるヤマト運輸の取り組み

脱炭素目標の達成に向け、EVや太陽光発電設備の導入を進めるヤマト運輸だが、もちろんそれだけではなく、FCVによる幹線輸送の実証や、オープンプラットフォームを活用した共同輸配送サービス「SST便」など、同時に様々な取り組みを行っている。

今回紹介した「EVライフサイクルサービス」や「ヤマトエナジーマネジメント株式会社」の取り組みも含め、幅広い取り組みを同時に行えるのも、全国で事業を展開しているヤマト運輸ならではの強みといえる。

特にEVについては、自動車メーカーの取り組みも始まったばかりであり、まだまだ知見が少ない。商用車ユーザーが求めるEVのラインアップが充実しているとはいえないのが現状だ。

そのような中で、多くのEVを実際に運行しているヤマト運輸は、ユーザーの代表ともいえる存在である。そこから発信される現場の声は、商用EVをより進化させていく原動力になり、それがさらに社会全体のEV普及、脱炭素化を加速していくことにつながるだろう。

多くの運送事業者にとって、脱炭素への取り組みはまだまだ緒に就いたばかりというのが現状だが、その中で先行するヤマト運輸の取り組みは大いに参考になり、また力強い支援になるはずだ。脱炭素は社会全体で取り組む課題であり、ぜひ業界全体で歩調を合わせ、一刻も早い目標達成を実現したいものである。(鞍智誉章)

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