トラック最前線/商用車の足まわりを変えるカヤバの次世代サスペンションシステム「ActRide」
2026年02月25日 14:24 / トラック最前線

商用車の「足回り」は難しい。特に幅広い業種で多様な使われ方をする商用バンは、サスペンションの設定が最も難しい車種の一つだ。そこで注目されるのがカヤバの新製品ActRide(アクトライド)である。スマホで簡単に減衰力を調整でき、状況や好みに合わせて最適な足回りとすることができる。ドライバーの負担軽減を実現する注目の商品だ。(山城利公)
■商用車の“我慢”を終わらせるか。後付けセミアクティブ「ActRide」が示す次の一手
カヤバ(KYB)は、スマホで乗り心地を操作できる次世代サスペンション「ActRide(アクトライド)」を発表、その第一弾として200系ハイエース/レジアスエース用を今年1月に発売した。
<東京オートサロン2026の会場で公開されたActRide(アクトライド)>

アクトライドは、スマホと電子制御サスペンションをBluetoothで接続することで、スマホからダンパーの減衰力調整が行えるというものだ。減衰力は前後独立して設定でき、荷物の重さや乗車人数に合わせて最適な制御を選ぶことができる。
最大の特徴は、ソレノイド式減衰調整機構を採用し、無段階かつシームレスに減衰力を制御できること。応答性は約10msと高く、駆動音も発生しない。従来の段階式とは一線を画す滑らかな制御が可能になった。
制御の核となるのは、コントローラに内蔵された6軸の(車両の前後/左右/上下の3軸+ピッチ/ロール/ヨーの3軸)IMUセンサである。走行中の車両挙動を検出し、ベース減衰を土台にリアルタイムで減衰を最適化。「オートモード」では、乗り心地と操縦性という本来背反する要素を両立させる方向で制御が介入する。しかも、それらはスマートフォン上で直感的に調整することができる。
注目すべきは、これらの機能を“後付け”で成立させた点である。これは、OEM前提の電子制御とは異なり、既存車両を進化させる選択肢を提示したといえる。そして、その第一弾に選んだのが、ハイエース/レジアスエース(200系)というのも特筆される。積載条件や使用環境の振れ幅が大きい商用車から展開をはじめたことは、本製品の思想を象徴している。
クルマの足まわりを語るうえで、サスペンションは常に重要な要素として取り上げられる。しかし、それがハイエースや小型トラックといった商用車になると、評価軸は乗用車とは大きく異なるのである。
■商用車の足まわりは“妥協”の上に成り立っている
物流・配送の現場で使われる車両にとって、サスペンションは快適装備ではなく、労働環境の一部といえる。
都市部の配送では段差や荒れた舗装が続き、高速道路では横風の影響を受ける。しかも、空荷から満載まで積載条件は刻々と変化する。ハイエースに代表される商用バンでは、「空荷では跳ねやすいが、積めば安定する」という声は珍しくない。
しかし、メーカーとしては、あらゆる条件を一つの固定セッティングで成立させなければならない。そこに無理が生じるのは当然の話だ。商用車の足まわりは、常にどこかを妥協した状態でバランスを取っている。それが現実なのである。
問題は、その“わずかな違和感”が一日、一週間、一年と積み重なったとき、ドライバーの疲労や安全性に影響を及ぼす点にある。
■なぜ今、電子制御なのか
ここ数年、物流業界を取り巻く環境は大きく変わった。いわゆる2024年問題を契機に、ドライバーの労働時間規制が強化され、人材不足は一段と深刻化している。車両は単なる移動手段ではなく、労働環境改善のための重要な装置と位置づけられつつある。
長時間運転による身体的負担をいかに減らすか。安全性をどう高めるか。さらには、車両の質を通じて人材確保や定着率向上につなげられるか。これらは経営課題でもある。
そう考えれば、足まわりの進化は単なるチューニングの領域を超える。電子制御サスペンションは、快適性向上という枠を超え、業務効率や安全マネジメントに関わる装備へと意味合いを変えつつある。
アクトライドが商用車から展開をはじめたことには、こうした時代背景が色濃く反映されているようにうかがえる。
■“後付けで成立する”という現実解
先述したように、アクトライドの最大の特徴は、後付けで成立するセミアクティブシステムであることだ。
技術陣は「専門的な作業を必要とせず、スマートフォンで直感的に調整できることを重視した」と説明する。これは商用車の文脈において極めて重要である。
従来の減衰力調整式ダンパーは、調整の煩雑さやセッティングの難しさから、結果的に固定状態で使われることも少なくなかった。多忙な現場では、扱いにくい機能は次第に使われなくなる。
スマートフォンによる操作は、その心理的・時間的ハードルを下げるのに役立つ。積載や走行シーンに応じて直感的に設定を変更できるという設計思想は、「使われること」を前提とした開発姿勢の表れといってもいい。
<スマホのアプリで簡単に乗り心地を設定できる(東京オートサロン2026カヤバブース)>

■ソレノイド式制御がもたらす“気づかれない変化”
アクトライドはソレノイド式減衰制御を採用し、無段階かつシームレスな調整を実現する。
物流車両において問題となるのは、必ずしも大きな衝撃ではない。むしろ段差を越えた瞬間の突き上げ、横風を受けた際の揺れ戻し、停止時のピッチングといった細かな入力の積み重ねが疲労につながる。
応答性に優れた制御は、そうした“一瞬の挙動”を穏やかに整える方向で機能する。劇的な変化ではなく、気づかないうちに負担が減っている。その領域こそ、商用車に求められる足まわりの理想形といえる。
■一つのセンサ「IMU」で制御する割り切り
制御はIMU(慣性計測装置)を用い、高次元で乗り心地と操縦性のバランス(両立)を提供する。3軸の加速度と角速度のみで車両挙動を検知するという構成は、後付け製品として非常に合理的といえる。
商用車は架装や仕様変更が多く、車両ごとの差異も大きい。センサが増えれば取り付け条件は複雑化し、故障リスクも高まる。IMU一つで、という割り切りは、汎用性と信頼性を優先した判断といえる。過度に複雑にしない。現場で使われ続けるための条件を、冷静に見極めた設計思想がうかがえる。
■ベース減衰と“無理をさせない”思想
アクトライドは、まずベース減衰で車両の基本特性を定め、そこに電子制御を重ねる構造をとる。すべてを制御任せにするのではなく、機械的な土台を重視する考え方だ。
さらに、旋回中には減衰を過度に高めすぎず、接地性を確保する方向で制御するという。商用車に求められるのは限界性能ではなく、破綻しない挙動である。ドライバーに無理を強いない制御思想は、安全性重視の現場志向そのものといえる。
初回適合車種が、ハイエース/レジアスエース(200系・2WD/4WD)である点も象徴的である。積載変化が大きく、用途が多様で、足まわりへの不満が顕在化しやすい車種だからこそ、電子制御の価値が分かりやすい。
ハイエースは配送業だけでなく、建築、設備、サービス業など幅広い業種で使用されている。つまり一つの車種でありながら、使用環境は極めて多様なのだ。市街地中心の短距離走行もあれば、高速道路を多用する長距離移動もある。積載物の重量や重心位置も一定ではない。そうした“振れ幅の大きさ”は、固定式サスペンションにとって最も苦手で難しい条件の一つといえる。
その車種をあえて第一弾に選んだことは、技術的な挑戦であると同時に、市場への明確なメッセージでもある。まず“働くクルマ”で成果を示す。その選択は、ある意味でアクトライドが単なるスポーツ志向の製品ではないことを明確にしている。
さらにいえば、ハイエースは中古市場も含めて車両保有年数が長い傾向にある。後付け製品との親和性が高い市場であり、既存ユーザーの裾野も広い。新車装着前提ではなく、今まさに使われている車両を進化させるというアプローチは、商用車市場における現実的なアプローチであり、戦略ともいえるだろう。
■ドライバーの身体的負担という視点
商用車の足まわりを語るうえで、もう一つ見逃せないのが身体への影響である。長時間の振動は腰部や頸部への負担となり、慢性的な疲労や痛みの原因になることが知られている。とくに配送業務では乗り降りを繰り返すため、筋肉や関節へのストレスが蓄積しやすい。
細かな上下動や左右の揺れが抑えられることで、身体の無意識の緊張が軽減される可能性がある。人は揺れに対して姿勢を保とうと常に筋肉を使っている。わずかな制御の違いが、その“見えない疲労”を減らすことにつながるのであれば、足まわりの価値は単なる快適性を超え、ドライバーのパフォーマンスを左右する重要な要素となる。
また、高齢化が進むドライバー層にとっては、振動や衝撃の影響はより深刻である。身体への負担が少ない車両は、それだけで働き続けられる時間を延ばす要素となり得る。安全確保という観点からも、疲労低減は重要なテーマだ。
足まわりの進化は、性能向上の話であると同時に、人を守る技術でもある。その視点を持つことで、電子制御サスペンションの意義はさらに明確になる。
■商用車の足まわりは次の段階へ
商用車の足まわりは、長らく「我慢するもの」「慣れるもの」として扱われてきた。しかし、ドライバー不足が深刻化し、労働環境改善が不可欠となった今、その前提は揺らいでいる。
電子制御サスペンションは、快適性の向上にとどまらず、安全性、業務効率、さらには、人材確保にも影響し得る装備である。例えば、長距離配送を担うドライバーにとっては、わずかな上下動や横揺れの違いが、一日の終わりの疲労度を左右する。結果として、ヒューマンエラーの抑制につながる可能性もある。足まわりの“質”は、単なる乗り味の問題ではなく、安全マネジメントの一要素と捉えるべき段階に来ている。
さらに注目すべきは、後付けという形態が持つ市場的な意味である。既存車両を活用しながら機能向上を図れることは、車両価格の高騰が続く現在において大きな価値を持つ。新車への買い替えだけが選択肢ではなく、保有車両のアップデートという発想が広がれば、商用車の維持・運用の考え方そのものも変わっていくだろう。
また、スマートフォン連携という仕組みは、将来的なデータ活用の可能性も示唆している。走行状況に応じた設定履歴や傾向が蓄積されれば、車両管理やドライバー教育に応用できる余地もある。現時点ではそこまで踏み込んでいないとしても、電子制御化は“拡張性”という新たな価値を商用車にもたらしてくれる。
アクトライドは派手さを競う製品ではない。だが、その設計思想は確実に新しい。商用車の足まわりを“我慢の対象”から“選択の対象”へと引き上げる可能性を秘めている。
発表会で示された技術と哲学からは、商用車の足まわりが次の段階へ進みつつある兆しが感じられた。重要なのは、乗り心地の良し悪しという感覚的評価だけではなく、働く環境をどう底上げできるかという視点である。
“仕事の足”は、進化できる。
アクトライドは、商用車の足まわりを“選択できる領域”へ引き上げる第一歩を示した製品といっていい。最終的な評価は試乗を待ちたいが、その開発思想の方向性はすでに明確だ。
(参考:KYB公式サイト)
https://www.kyb.co.jp/kybclub/products/street/actride/special.html
【文:山城利公(やましろ・としまさ)】
1963年・東京生まれ、モータージャーナリスト/プロドライバー
幹線輸送トレーラのドライバーとして200万km(20年・地球50周以上)におよぶ無事故運行の実績を持ち、商用車技術と物流業界に精通。実体験と現場視点をもとに、クルマ社会の「今」と「未来」を発信している。
大型けん引免許/自動車整備士(国家資格)/整備管理者(選任資格)/国内競技運転者許可証A級(JAF公認)/フォークリフト運転技能講習 修了/日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
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