トラック最前線/佐川急便と共同開発した軽商用EVバン ASF2.0試乗記
2023年10月17日 14:38 / トラック最前線
- 関連キーワード
- EV
カーボンニュートラルへの取り組みが進む中、今後急速な普及が期待されるのが軽商用EV。近距離の宅配業務などEVとの相性も良く、今後も各社から多くの新型車の登場も予定されている。
その中で今年5月に登場したのがASF2.0だ。その特徴は佐川急便と共同開発した軽商用EVであること。宅配ドライバーの要望を採り入れることによって、宅配業務に最適化されている。今回はこのASF2.0に試乗したが、宅配業務での使い勝手の良さはもちろん、軽バンとしての基本性能の高さにも驚かされた。(鞍智誉章)
宅配ドライバーの悩みを解消する工夫が満載
ASF2.0は、日本のEV開発会社ASFが設計・開発し、中国の柳州五菱汽車で製造される軽自動車規格の商用EVだ。中国で生産されるため「中国車」というイメージはあるが、実際には国内で設計された「海外生産車」という位置付けである。開発は佐川急便との共同で行われ、佐川急便の宅配ドライバーの声を参考に宅配業務専用車として設計されているのが特徴で、既に佐川急便に納車を開始、マツキヨココカラ、ダスキンでも本格導入を予定、今年5月からはASFに出資するコスモ石油マーケティングが展開する「コスモMyカーリース」でも取り扱いが開始された。佐川急便だけでも2030年までに7200台の導入を予定しており、数年後には街中で日常的に見かける存在となることだろう。
ボディサイズは全長3395×全幅1475×全高1950mmで、荷室寸法は長さ1690×幅1340×高さ1230mmで最大積載量は350kg。荷室床は完全にフラットで荷物が積みやすい形状となっており、ダンボール小(幅497×奥行315×高さ293mm)で45箱、ダンボール大(幅601×奥行450×高さ453mm)で14箱を積載可能。例えば、軽1BOXのエブリイは同寸法のダンボール小で46箱、ダンボール大で15箱が積載できるとしている(スズキ公式サイト)のに比べると、ASF2.0は大小1箱ずつ少ないことになるが、実質的にはほぼ同等といえる。軽1BOXから代替しても荷物の積み込みで困ることはなさそうだ。
一方で、注目は宅配ドライバーの意見を取り入れた工夫の数々。まず荷室の照明は通常の箱バンなら中央部に小さなランプが装着されていることが多いが、ASF2.0では天井に長いLED照明を配しており、リヤハッチ手前から奥側まで暗い中でも荷物をしっかりと照らす。夜間の配達に役立つ装備だ。
<フラットな荷室と手前から奥まで荷室を明るく照らすLED照明>
また運転席側のスライドドア下部には台車を置くスペースを用意。反対の助手席側には小物収納スペースが設けられており、充電ケーブルなどが収納できる。このため荷室内に余計なものを乗せる必要はなく、荷物だけでフルに使うことができる。
さらに、運転席側も明るいLED照明が装備されている他、上部には書類が入れられるスペースがあり、またハンドルに装着し食事や書類の記入に役立つテーブルなども備わる。シートは運転席と助手席の2つだけだが、シート幅は左右同じではなく、運転席を広げているのも、宅配専用車ならではだ。つまり、これまでの宅配車両は、主に小物収納と夜間照明、書類置き場に困っていたといえそうだ。そして、これらをカバーしたのが、ASF2.0というわけである。
軽商用EVでトップクラスの航続距離
搭載するバッテリーはCATLのLFP(リン酸鉄リチウムイオンバッテリー)で、容量は30kWh。軽商用EVとして先行する三菱ミニキャブミーブが16kWh、現在EVとして最も日本で売れている軽乗用EVである日産サクラが20kWhなのと比べると、軽EVとしては容量がやや大きいバッテリーを搭載している。
現在公表している一充電あたりの航続距離(メーカー測定値)は209kmだが、これは中国での計測値とのこと。日本で再計測したところ243kmとなり、商用の軽EVとして十分な航続距離だ。ASFのCTO車両開発部部長の山下淳氏は220km程度を想定していたといい、それを大きく上回ったのは驚いたという。
ちなみに三菱ミニキャブミーブは133km(WLTCモード)、これから登場するモデルでは、23年度内発売予定のダイハツ/スズキ/トヨタの軽商用EVが約200km、24年春発売予定のホンダN-VAN e:は約210kmとしているから、予測値ながらこれらをやや上回ることになる。したがって、少なくとも航続距離でライバルに後れをとることはない。
充電口は車体のフロント中央部にあり、6kWの普通充電、CHAdeMO規格の急速充電に対応。普通充電なら6~7時間、急速充電なら60分で充電完了となるから、幅広いニーズに対応することができる。なお、佐川急便では基本的に普通充電を使い、緊急時のみ急速充電を使うとのこと。
バッテリーは安定性の高いLFPなので、長寿命かつ安全性の面でも安心して使うことができる。コスモMyカーリースの場合、6年リースでの契約法人が大半というが、バッテリーのメーカー保証も6年なので、劣化を心配する必要がないのもポイントといえるだろう。
パワートレインでは、トラクションモーター、インバーターはニデック(旧称:日本電産)製を採用している。このニデックのシステムは小型EV用に開発されたもので、小さなボディの中で自由に配置できるようeアクスルとして一体化せず、あえて別体としているのが特徴である。
操作系はガソリン車と変わらず使いやすい
今回はお台場周辺での短時間試乗だったが、それでもASF2.0の基本性能の高さはすぐに体感することができた。
運転席はやや高い位置にあるが、足元に大きなステップがあり、手を伸ばした位置にしっかりとしたグリップがあるため乗り込みやすい。ラストワンマイルの宅配は小柄な女性や高齢者のドライバーも多いが、これなら負担も少ないだろう。
運転席のシートは幅が広くたっぷりとしているが、座り心地はやや硬め。長距離・長時間ドライブには向かないが、短時間で乗降を繰り返す宅配に適したセッティングとなっている。前方の視界はもちろん、両側のサイドウインドウも下に大きく広がった形状となっているので、側方の見晴らしもよく、狭い路地でも安心である。
操作系は乗り慣れた一般的なガソリン車と変わらない。EVの場合、シフトはスイッチやダイヤル式のものも多いが、ASF2.0ではインパネ中央にシフトレバーを設置。電動パーキングブレーキを採用していないため、サイドブレーキは足踏み式を採用するなど、使い方はガソリン車同様だ。またEVを含めた電動車で多いワンペダルでの操作もできない。新鮮味がないといえばそれまでだが、余計なところで気を使う必要がないのは、宅配ドライバーにとって好ポイントといえる。
荷崩れしないスムーズな走りはEVならでは
実際に走らせてみると、軽商用車らしく足回りはやや張りがあるが、コーナーでもしっかりと踏ん張り、安定感が高い。全幅は1475mmで他の軽商用車と同じだが、全高は1950mmでハイルーフのハイゼットカーゴ(1890mm)やエブリイ(1895mm)よりも高いため、横風や旋回に対しては不利になりそうに思えるが、床下に230kgものバッテリーを搭載するため重心高は低く、挙動は安定している。これはEVならではの優位点といえるだろう。ステアリングは軽く操舵しやすいが、余計な動きは少なく、街中で扱いやすい。ブレーキの減速感も自然で、クセがない。
走りは極めてスムーズだ。最高出力は30kW(約40.8ps)と控え目だが、最大トルクは120Nmと軽ターボ車のほぼ2倍に達するので、発進から滑らかに加速し、余裕で巡行域まで達する。アクセルを軽く踏んだだけで直線的にパワーが出てくるので、運転時に余計な気を使うこともないし、力不足を感じることもない。アクセルのオン・オフでギクシャクした動きが出やすいガソリン車と異なり、ASF2.0は多少荒い操作をしてもフラットな動きが変わらないのも長所だ。ドライバーが身体を揺さぶられないので疲れにくいし、何より荷崩れしにくいのは軽商用車としては最大のメリットといえるだろう。
ドライブモードはノーマルとエコの2モードがあり、シフトレバーで選択する。意外と好印象だったのはエコモードで、減速時の回生が少し強くなり、特に信号に近づいた時などの減速感がATのガソリン車に近く、乗りやすい。加速も抑制されるが極端に遅くなるわけではないので、住宅街などでの走行に向いているドライブモードである。
走行時のモーター音がやや大きいなど細かなところでは気になる部分もあるが、宅配専用の商用EVとしては十分許容範囲。軽商用EVはこれからダイハツ/スズキ/トヨタ、またホンダからも新型車が登場を予定しており、一気に市場が広がる可能性もあるが、ASF2.0はその中でも大きな存在感を示すことになりそうだ。
コスモMyカーリースで月々2万円代から
このASF2.0の普及を後押しするのが、コスモ石油マーケティングだ。同社はグリーン電力の発電や販売など、エネルギーの脱炭素化を進める一方、2010年から「コスモMyカーリース」を展開している。このMyカーリースにASF2.0を加えれば、自社の「コスモでんき」の販売にもつながり、脱炭素化への取り組みがさらに前進することになる。
加えて、もう一つASF2.0を取り扱う理由は、法人ユーザーの取り込みだ。現在のコスモMyカーリースは個人ユーザーが85%で、法人は15%程度。EV導入ニーズは今のところ法人の方が高い。そこで商用EVをカーリースのラインアップに加えることで法人ユーザーの取り込みを図っていく。コスモ石油マーケティングの大高敬世次世代事業部長によれば、法人ユーザーを3割くらいにしたい、という。
さらに同社が用意しているのが、実用的なEVパッケージ「ゼロカボプラン」だ。これはEVカーリースに、風力発電による再エネ電力、EV充電設備、EVメンテナンスをパッケージにしたプラン。これならば電気、充電器、車両のそれぞれのサービス事業者に手続きする必要はなく、すべて一括で導入や支払いが可能になるというわけだ。
なおASF2.0のリース料金は、黒ナンバーで月額2.5万円~2.8万円、黄ナンバーで3.3~3.6万円程度の予定(6年契約・月間1000~2000Km走行プランの場合)。全国840あるコスモのガソリンスタンドのうち、各都道府県に数店舗、全国で約80店舗をEV整備可能店舗とするので、サービス面でも安心して導入することができる。
最新ニュース
一覧- 中部運輸局/10月「トラック事業の集中監査月間」、4つの重点項目設定し監査を実施 (08月28日)
- JL連合会/25年度「中国・四国地域本部大会」を開催、約150名が参加 (08月28日)
- 25年7月車体生産台数/平ボデートラック(中型)が好調に推移 (08月28日)
- 関東運輸局/25年8月22日、大型車や中型車に対応する自動車特定整備事業3社認証 (08月28日)
- いすゞ/自動運転専用テストコースを新設、国内商用車メーカー初 (08月28日)
- 関東運輸局/25年8月14日、第一種貨物利用運送事業3社を新規登録 (08月28日)
- ナビタイム/「トラックカーナビ」にルートの編集&共有機能の提供を開始 (08月28日)
- 関東運輸局/25年7月の行政処分、輸送施設の使用停止(240日車)など21社 (08月28日)
- 北陸道/小松IC~加賀IC(上り線)28日20時~翌6時、緊急工事で通行止め (08月28日)
- ジャパントラックショー in Fujispeedway/前売り駐車券を9月1日から発売 (08月28日)
- セイノーホールディングス/「ロジスティクス白書」公開、共同輸配送など紹介 (08月27日)
- ダイナミックマッププラットフォーム/レベル4自動運転実装に向けた取り組みを紹介 (08月27日)
- 日野コンピューターシステム/「健康起因による交通事故ゼロ」目指しharmoと提携 (08月27日)
- ダイセーHD/知名度向上目指し、グループ各社のトラックに共通ロゴを掲示 (08月27日)
- セコム/カスハラの通報と録音ができる「iPhone」「Apple Watch」専用アプリ開発 (08月27日)
- 北海道経済産業局/共同輸配送デジタルマッチング参加事業者募集 (08月27日)
- 全日本トラック協会/トラックドライバーの健康増進に向けた動画を公開 (08月27日)
- 自動車事故対策機構/安全マネジメントセミナーの申込受付を9月1日に開始 (08月27日)
- 軽油小売価格/全国平均154.3円(前週比マイナス0.5円)35都道府県で値下り(25年8月25日) (08月27日)
- 国道8号米原バイパス/9月23日に全線開通 (08月27日)