トラック最前線/トップインタビュー  レベル4自動運転トラックが支える物流の未来

2023年10月02日 14:00 / トラック最前線

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ドライバー不足が予想される今後の物流業界。そこで期待されるのが、ドライバーレスでトラックを走行させる自動運転レベル4の実現だ。そこで、長距離輸送を無人化することで物流の未来を変革すべく、大型トラックのレベル4自動運転の開発に取り組んでいるのが三井物産によって設立された株式会社T2である。今年4月には高速道路上での自律走行に成功するなど、実用化に向けて準備が着々と整えられている。そこで現在の開発状況や今後の見通しについて、同社CEO(当時)の下村正樹さんにお聞きした。なお下村氏は9月20日に同社CEOを退任、新CEOには森本成城氏が就任している。
取材日:7月31日

トラックの自動運転で物流インフラを維持する

―― まず最初に、T2の成り立ちを教えてください。

下村 T2という会社は、もともと三井物産がAI開発企業であるPreferred Networksに出資したことに端を発しています。Preferred Networksの持つ認識系の技術と、三井物産が持っている自動車事業のノウハウを掛け合わせて、何か新しいことができないか、という議論を続けてきた中で、両社の強みを活かせば自動運転ができるのではないか、という結論に至ったんです。

―― 自動運転技術の開発は乗用車でも進められていますが、御社は商用車をターゲットにしています。その理由は?

下村 最大の理由は、物流インフラの維持という社会課題ですね。物流の2024年問題といわれていますが、トラックドライバー不足は深刻です。高齢化が進み、なり手も少ない。物流キャパシティがどんどん小さくなってしまう。これを解決するために、レベル4の自動運転技術を使ったサービスを提供していこうと思っています。

―― 技術開発だけではなくて、実際の運行も行うのですか?

下村 自動運転のシステム開発だけじゃなくて、そのシステムを搭載した車両による輸送サービス会社になろうとしています。自動運転を本当に物流インフラにするためには、「技術を開発しました、誰かやってください」というのはたぶん成り立たない。本当に物流インフラにしようと思ったら、我々自身が輸送オペレーションまで作り込んで提供していこうと。リスクがあるのは承知していますが、そこまでいかないと法整備も追いついていかないでしょう。そこはチャレンジしていこうと思っています。

―― かなり実行力、実現力が求められますね。下村さんがT2の社長になったのは22年9月からですが、その辺りも理由なのですか?

下村 T2に来る前はロシアで三井物産の子会社の社長をやっていたんですが、戦争になってしまったので、やることないだろうと。ウクライナが侵略を受けたその日はロシアにいまして、これはやばい、早く外人は脱出しないと、と言われて。2月24日にロシアがウクライナに侵攻したんですけど、僕は3月16日にやっと脱出しました。結局、外人が捕らわれたりとかはなかったんですけど、それでも国境が閉じられて実質的な人質になるリスクはあったので、出国することができて良かったです。また、その前はインドで物流会社の社長をやっていました。トラック2000台ぐらいで、それなりに規模感のある物流会社でした。危機管理に強く、物流を知っているということが社長就任の理由かもしれません。

自動運転実用化で4つの価値を提供

―― 御社では自動運転について、高速道路など特定条件下における完全自動運転「レベル4」を実用化するとおっしゃっています。技術的にはその先に全領域での完全自動運転「レベル5」、つまり一般道も含めてドライバーレスの自動運転があると思うのですが?

下村 我々は高速道路を中心に走っていきます。現段階で一般道を自動運転で走るのは相当難しいと考えております。限定領域、要するに歩車分離ができているところで、まずは東京-大阪間に集中していこうと思っています。そうなると、途中の名古屋も含めて、東名阪間の物流ができてくるのかなと勘案しています。

我々は、トラックをベース車から作ろうなんてことは全く思っていませんし、センサーも最新のものを外部から調達しています。必要なソフトウェアのサービスも同様です。しかし、これをインテグレートする技術、つまり画像やセンサー情報で車を制御する技術は、我々しかできない技術なので作り込んでいきます。また、遠隔監視のシステムが必要になってきますので、協力会社と共に作っていきます。

―― 自動運転が実現できると、どのような変化が生じるのでしょうか?

下村 我々がどんな価値提供ができるか。4点あるのですが、まず一つ目は安定したキャパシティの提供です。僕はプレゼンするときにいつも言っているんですけれど、絶対ダイナミックプライシング(変動料金制)をしないと。キャパを提供し物流インフラを構築するのが最優先で、まずは皆さまに使っていただかないといけません。

次に生産性。夜に東京を出て大阪に朝着いて、人だったらそこで休んで、また大阪で夜に荷物を積んで朝に戻って来る。我々の場合は朝着けばそのまま帰ってこられるので、生産性が上がる。ただ、既存のオペレーションは、夜走ることを前提としているので、それを変えることは必要です。例えば、倉庫にそれだけのキャパが必要になる。そういったことも含めて、既存の物流システムを変えていくことも必要なので、パートナー企業さんには自動運転をインフラとして使うために協力をしてください、と話をしています。

そして安全面。高速道路では約9割がヒューマンエラーに起因した事故、つまりオーバースピード、よそ見、車間距離の詰めすぎなどです。なので、それがなくなれば事故は圧倒的に減るし、本当に安全になると思っています。

最後が燃費なんですけど、一定の速度でずっと走っていきますから、当然燃費は改善できます。これは全部データを公開していこうと思っています。どうすれば一番CO2を削減してカーボンニュートラルに近づけるか。もちろん将来的にはEVだったり水素なのかもしれません。ただ、今の技術ではトラックを電気だけで東京-大阪間を走らせるのは無理ですから、例えば、中間地点の浜松で電池を積み替えるような、そういったことも考えていこうと思っています。

<T2の自動運転大型トラック>
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実証実験で見えてきたレベル4自動運転の課題

―― システムの特徴は?

下村 ハードウエア自体はLiDAR(ライダー)、レーダー、GPS、カメラ等で構成しており、既存のトラックに装着しています。自動運転システムは周囲の障害物等を検出し経路を探索し車両の制御を行います。我々の強みはアルゴリズムを作れることです。センサーデータを用いた高精度な障害物認識アルゴリズム、車線変更アルゴリズムなど自動運転システムの核となるシステムは我々が作り込んでいます。

一方、我々の弱みは、自動車メーカーではないのでモノを作っていないことです。制御信号でハンドルを動かす、ブレーキを踏むという部分は、ものづくりの領域です。なので、この分野でも仲間が欲しいと思っています。

レベル4の自動運転はできるとは思っています。けれど、一方で恐怖感を持っているんです。正直、本当に作り込めるのか。自動車メーカーがやっていない領域にチャレンジしようとしているのですから。冷静に考えて本当に検証していかなきゃいけないことが山ほどあるというのは、もう恐怖感でしかないですね。

―― 開発はどのように進めたのですか

下村 まず乗用車の実験車両にシステムを搭載して、そのモデルをトラックの実験車両に移すという方法で進めました。

ただ問題は、乗用車の実験車両特性が良かったため制御信号に対して素直な反応をするのに対して、トラックはそうではないので、ハンドル操作の制御が容易ではなかった。ブレーキも同じです。その辺りの調整も必要になってきます。

―― その辺りはトラックならではの難しさかもしれませんね。実際にトラックで走行試験をされてみて、いかがでしたか。

下村 評価としては、もちろん思った通りには走れているんですけど、まだ人間のレベルには達していない。安全ではあるけれど、今後はスムーズさを磨き上げていかなきゃいけない。

―― 足りない部分とは?

下村 普通に走る分に関しては機能しています。でも前の車がブレーキを掛けた時、人はその先の状況も見て、必要がなければ速度をそのまま維持するとか判断する。でも我々の自動運転車は適正な車間距離が100mと決めたら、速度を落としてでも100mに合わせてしまう。

今は安全を最優先にしているので、人が判断している要素は逆に除いている。そうすると速度をいったん落とすから、加速も余分にかかる。だから実は思ったほど燃費が改善しない。ファジーな判断技術を、システムはまだ作り込めていないのが課題といえます。

―― あいまいなところに弱いというのが、今のAIの弱点でしょうか。

下村 感情がないのと一緒。データはなくても、こうだろうということを瞬時に人は判断しているわけじゃないですか。それをシステムに落とし込めているかというとできていない。ベテランドライバーさんの経験値をシステムに移すというのは、本当に難しい。

例えば風が強い日なら、トンネルを走行中のドライバーは、トンネルを出た瞬間に横風が吹くことを想定して運転しているので、即座に対応できる。でも機械だとまだうまくいかない。そういったファジーな世界をどうするか、エンジニアを問い詰めています(笑)。

AIは、将棋のように決まったルールの中で決まったパターンを掘り下げていくのは得意なんですけど、道路は決まっていない要素が多いので大変です。

―― 天候も課題ですね

下村 そうですね。もちろん今は本当に安全最優先なので、例えば雨は1ミリ以下の時しかテストをやらないと徹底しているんですけど。でも実際走るときは雨の日もあれば、霧の日もありますし。そこにチャレンジしていくのは大変です。大粒の雨が降ったときに、センサーが雨粒を障害物と認識してしまうといったことも考えられるので、その辺の実験を繰り返していく必要はあります。

<今年4月に実施した高速道路での走行実験の様子>
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多くのパートナーとの協力でソリューションの実現を急ぐ

―― 6月には三菱地所さんとも資本提携されました。その狙いは?

下村 我々は高速道路だけを走っていくことを理想と考えています。ただ、すべて高速道路だけで完結するとは思えないので、一般道に設置された切り替え拠点から高速道路に入り、到着地で一般道に降りて切り替え拠点に行く、というオペレーションも考えなければならない。

三菱地所さんは、高速道路直結の物流施設を京都府城陽市に開発すると昨年発表しました。まさにこれが三菱地所さんと提携した最大の理由なんです。高速道路直結であれば、一般道に降りる必要がないので、開発工数は格段と減ります。

―― 高速道路だけ自動運転トラックが担当し、それ以外の一般道は有人トラックが担当する、という形ですね。

下村 今後は、出発拠点と着地点でどうやって積み荷をさばくのか、とかも課題になってきます。極論すれば、例えばスワップボディなんかが自動運転には一番合うわけですよ。でもスペースがない倉庫に、スワップを置けるかと言ったら置けないわけですよね。荷物の夜便と朝便を作ろうと思うと、そこに滞留する荷物のスペースが必要なわけです。

今後、自動運転に対応する倉庫というのを、三菱地所さんとわれわれで共同開発していきます。将来的には我々以外の車もそこを使い、自動運転車両が全部その倉庫に集まるという形になるかもしれません。

―― 自動運転に合わせて施設やシステムも変えていく必要がありますね。ただ、いきなりすべてを変えるのは難しい。現状のインフラに自動運転車の運用を合わせていかざるを得ない部分もあります。

下村 現場を知らずに全部デジタルで解決しようとするのは無理があり、実現可能なソリューションとしていくためには、現場を知っている人間とエンジニアが協力して、様々な分野のパートナーとしっかりタッグを組んでやっていく必要があります。

また官庁側ではデジタル庁、経産省が主導でデジタルライフライン全国総合整備計画を推進しているんですけど、自動運転車両を使った輸送サービスを実現するためには、規制をクリアーする必要があり、その対応を国交省であり警察庁であり、通信分野では総務省にも相談しながら最適解を模索している。自動運転輸送サービスを実現していくためには、いろんな人たちと、本当に一つ一つ丁寧に詰めていかなければいけない、そんな状況です。

日本の物流の未来を支えたい

―― 実際のサービス開始は、いつ頃になりそうですか?

下村 政府は2025年度、つまり2026年3月までに高速道路の自動運転を実現することを目標としており、我々もこれに合わせてプロジェクトに取組んでいます。

最初は50台でスタートしようと思っているんです。実験車両を10台ぐらいまで増やしていくので、その実験車両にプラスして、徐々に台数を増やしていければと思います。

―― 輸送費はどうですか

下村 将来的には安くなります。ですが、最初にそのお約束はしていないですし、逆にコストアップになるかもしれない。それでも未来のために、一緒にやっていただける荷主様とか運送会社様と組んでいくということだと思います。

今は運賃も急上昇しています。今後もこの傾向は続くと思いますから、チャンスはあると思っています。ただ、初日から安くなりますかと言われても、それは約束できない。日本の未来を一緒に作っていく、そういう人たちと組んでいくと思います。未来が危ない、物流が成り立たないということが理解いただける荷主様、運送会社様ですね。

―― 自動運転が進んでいくと、ドライバーの仕事が奪われるのでは、と考える人もいると思いますが。

下村 この市場が100%自動運転に置き換わることはない。ただ、長距離ドライバーさんの中には、家にも帰れない、トイレも行けないみたいな状況になっている方もいらっしゃいます。そこを部分的に機械に任せることで、その人たちも毎日家に帰って、家族と時間を過ごすことができるようになればいい。よく残業が減って賃金が下がるとか言われますが、そうじゃなくて、全体的に物流コストをみんなで負担していく、適正な運賃をもらうということになっていくんだと思います。

―― 日本全体で物流の在り方を考えていく。

下村 日本の物流の未来を支える。それがわれわれのミッションと思っています。政府のRoAD to the L4(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト)など、いろいろな取り組みがスタートしていますが、最終的には僕は一本化し、この国のために自動運転を実現するというナショナルプロジェクトになってくるんだと思います。そこで、我々はトップランナーを走り続けようと。

最終的には、どこかの企業に買われてもいいと思うんですよ、それで日本の物流の未来が支えられるのであれば。複数のプロジェクトを並走させていく状況ではないと思っているので。この国を支えるんだ、ぐらいの気持ちでまとまっていくんだと思います。

私は9月20日にT2のCEOを退任します。この記事が出るのは社長交代後になるかもしれませんが、
後任の森本CEOが自動運転技術を使った物流インフラ構築というこの志を引き継ぎ、きっと自動運転輸送サービスを実現してくれると思っています。(了)

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