トラック最前線/労使共闘で挑む運輸労連の24春闘
2024年01月24日 13:22 / トラック最前線
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物価高騰が続く中、各業界で賃上げが期待される2024年の春闘。それに加えて2024年問題や他業界との賃金格差もあって、トラック運送業界の動向には注目が集まる。そのような状況下、トラック運輸を中心に全国約400組合、10.9万人が加盟する運輸労連(全日本運輸産業労働組合連合会)は、この24春闘をどのように位置づけ、取り組んでいくのか。運輸労連の入倉裕介中央書記次長にお話を聞いた。
(取材日:12月18日)
思い切った賃上げでドライバーを魅力あるものに
運輸労連は2024年の春闘で、1万5000円中心の賃上げ要求とする方針を示した。賃上げ率は6%で、前年の5.5%を上回り、30年ぶりの高水準となる。
「昨年の23春闘は、原材料や燃料費の高騰、急速な円安による物価上昇など、厳しい経営環境の中での交渉だったが、将来を見据えて成果報酬といわれる一時金ではなく、月例賃金にこだわった交渉をやっていこうというスタンスで取り組んだ。その結果、平均妥結額は27年ぶりに4000円台という水準に引き上げることができた」と入倉氏は振り返る。
しかし、物価上昇率はそれを超えるレベルで上がっており「賃上げはそれを吸収できたかというと、まだ難しい水準」という。
「これまでの実績から見ると、非常に大きな成果だが、他の産業では、先行的に物価上昇分も確保した賃上げができたところも多かった。我々はそこまで十分に確保できたとはいえない」と指摘する。
そのような背景から24春闘では「1万5000円中心という、インパクトのある金額」を示したという。
「それぐらい賃金を獲得しないと、人材獲得が難しい。極めて建設的な要求だと思っている。もちろん企業から、ない袖は振れない、と言われればそれまでだが、袖を振れるように、お互いが頑張りましょうという意思表示も含めた要求と捉えている」と力を込める。
多くの荷主企業との賃金格差はトラック運送業界の課題の一つだが、その格差是正までは至っていないのが実情だ。他業界に比べて低い収入は、トラックドライバー不足の大きな要因であり、将来の物流を支えていくためにも早急に是正していかなければならないだろう。
一方、今年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用される。これも高水準の賃上げを求める大きな理由である。
他業界に比べて長い労働時間は、健康を損なう大きな要因となっており、これを是正する必要がある。が、同時にそれによって収入が少なくなってしまうのでは生活が成り立たない。
「労使で変えていかなければいけない難しい局面だと考えている。走った分、運んだ分が反映される賃金体系では、稼働が制限されるとその分賃金も減ってしまう。稼働を制限しても、これまでと同等、あるいはこれまで以上の水準の賃金が獲得できるようにしないといけない」。
そのために必要なのが、適切な運賃設定によって原資を確保すること。自社に必要な労務費を含めた原価計算を行い、賃金体系から逆算して運賃を定めていくことが、これからの経営に求められていく、と入倉氏はいう。
ただ、実情として中小事業者では、標準的な運賃の届け出をしていないところも多い。届け出が必要とされない環境が一部には残っているのも課題と入倉氏。運輸労連としては、各事業者団体とも連携し、この改善にも努めていくとしている。
「賃金格差についても、ようやく認知が広がってきた段階というのが現状。実際にこれを是正していくには、値上げ交渉の場で本当に必要とされる数字をしっかり提示することが必要で、そのためにも労務費を含めた原価計算による必要な価格転嫁や標準的な運賃を届出して交渉していくなど、具体的な行動が伴わないと賃上げの原資が獲得できない。24春闘はそのような状況にあると考えている」。
企業の覚悟が試される春闘に
ますます深刻化する人手不足などもあり、運送業界の今後を大きく左右することになりそうな24春闘だが、そのような背景から入倉氏は「企業の覚悟が試される春闘になるのではないか」という。
荷主側も含めた業界全体の動きとして、適正な運賃を収受し、しっかりと利益を確保しようという流れにはなっているものの、現状はまだ十分に実現できているわけではないからだ。
このため、実際には先行投資のような形で賃上げを先行せざるを得ないのではないか、と見ているという。
「今回賃上げがなされないと、ドライバーの人材流出を止められない状況にある。その意味でも企業は覚悟を持った回答を、また組合側は要求をしていかなければいけない。ただ、それには労働側からも経営に対して建設的な提案を行い、労使が一緒に闘うパートナーになっていく必要がある」と入倉氏。
ドライバーを含む労働者側が賃上げを要求するのはもちろんである。しかし、現在運送事業者を取り巻く環境や経営状況を考えると、ただ賃上げを要求するだけでは実現は困難だ。賃上げを実現するには労使それぞれのパートでどのような取り組み姿勢が必要か、労使が対話によって確認する関係がますます重要になるという。また、労働側も思い切って実情を伝えていく必要もありそうだ。
「業界全体で、これまで蓄積してきたノウハウと、サービスのレベルは低下させてはいけないという意識がある。その一例がジャストインタイム。業界にとって重たいテーマでもあるが、これを実現できたのはトラックドライバーの努力の積み重ねだと思う。そうした実績がどのように積み上がってきたのか、今回は冷静に振り返る機会にもなる」と入倉氏は分析する。
料金や運賃をどのように適正化していくのか。それには、これまでどのような作業がどのように行われ、何が課題でどうして解決できなかったのか。2024年問題は、それを見直す絶好の機会であり、それ故に24年春闘は大きなカギを握ることになりそうだ。
「いくらITの発達や自動化の流れが来ているといっても、運送業は農産物や製造品などの“人が作ったもの”を人が運転して輸送のリレーをつないでいくという基本は変わらない。労働集約型産業だから、人が楽しく働ける、働きやすい環境整備がやはり大事。そのためにも労働者の声がちゃんと経営層に届く環境が大切になる。労使交渉だけではなく、対話するパートナーとして労働組合の存在が認められるよう、我々も取り組んでいきたい」と入倉氏。
質の高い日本の物流だが、ドライバーの献身的な努力もこれを支える大きな力となってきた。しかし、それにも限界がある。2024年問題を契機に多くの課題を解決し、物流を維持していくためにも、運輸労連の取り組みに今後も期待されるところである。(取材・執筆 鞍智誉章)
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