トラック最前線/運送事業者に最適なEV充電器「BC-Pro.シリーズ」を展開する新電元工業の取り組み
2024年04月09日 13:35 / トラック最前線
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政府の2050年カーボンニュートラル宣言や、EVトラック各社のラインアップ拡充などもあり、トラック運送事業者のEVトラック導入事例も徐々に目立ち始めた。現在は実証として少数台の導入に留まるケースが多いが、今後本格的な導入を検討している事業者も多く、急速な普及拡大が期待される。一方、このEVトラック導入とセットになるのが充電器。こちらも市場拡大に合わせ、幅広い事業者のニーズに応えるべくラインアップが充実してきている。今回は、EVトラック・バスなど商用EVに向けたEV充電器「BC-Pro.モデル」を展開する新電元工業に、EV充電器市場の動向やその取り組み、今後についてお聞きした。(取材日:3月12日)
事業者向けに広がるEV充電器市場
2023年は商用EVにとって、ターニングポイントとなった年といえるだろう。いすゞが「エルフEV」を発売、三菱ふそうも「eキャンター」をフルモデルチェンジ、22年に登場した日野「デュトロZ EV」も併せ、トラックメーカー各社のラインアップが出揃った。また、三菱自動車は軽商用EVバン「ミニキャブEV」を発売、さらにはフォロフライやASF、HWエレクトロなど新興EVメーカーも本格展開を開始するなど、ラストワンマイル配送を中心に商用EVの選択肢が急速に拡大した。
その流れは24年も続き、いすゞがエルフEVに普通免許で運転できる「エルフ ミオEV」を追加、間もなくホンダも軽商用EVバン「N-VAN e:」を発売する予定だ。乗用車のEVは普及率2%前後で足踏み状態が続いているが、一方で商用EVは新型車の相次ぐ登場もあって比較的スムーズに伸長していく可能性が高い。政府の2050年カーボンニュートラル宣言など、企業にCO2削減が強く求められていることも追い風になりそうだ。
新電元工業の営業本部営業統括部販売促進課の今井恭佑主任は、各事業者にとってEVトラックなど商用EVの導入は、まだ検討段階の期間ではあるとしながらも「ようやく商用分野でもEVを選びやすい環境が揃い、盛り上がりつつある」という。そして当然ながら、それに併せてEV充電器の検討も増えてきているという。
<新電元工業 営業本部営業統括部 販売促進課 今井恭佑主任(右)と同 神坂賢輔課長(左)>
ちなみに同社では、EV充電器を公共用、家庭用、商業用、そして事業用の4つの区分けで展開している。これは顧客ニーズがそれぞれで異なるからであり、EV充電器に求められる機能も異なるためである。
同社がこれまで主力としてきたのは公共用EV充電器で、既に高いシェアを持っている。が、今後は公共用に加えて、充電サービサー向けの商業用と、主に物流事業者向けの事業用の需要が拡大すると考えているという。そこでラインアップを整備し、商業用には新シリーズである「MITUS」を25年春に発売する予定だ。
一方、同社が事業用のEV充電器として2023年に発売した新シリーズが「BC-Pro.モデル」である。「これまで売り文句として事業者向けと謳ったEV充電器はありましたが、本当にそこにフォーカスして開発したEV充電器はあまりなかった。そこで、設計のコンセプトから事業者向けのニーズを織り込んで開発したのがBC-Pro.モデルです」と今井氏。
「BC-Pro.モデル」は、2023年の1年間で急速充電器2機種、普通充電器1機種の計3機種を一気に揃えたが、そのことからも、事業用EV充電器市場への同社の本気度がうかがえる。「通常、EV充電器はそんなに短スパンでリリースするものではなく、また事業者向けの機種が市場にあまりない中で、そこに焦点を絞って3機種も一気に揃えたというのは、業界内でもレアなケース」(今井氏)と振り返る。
<3機種をラインアップするプロユースのEV基礎充電器「BC-Pro.モデル」>
事業者のニーズに応えるBC-Pro.モデル
公共向け、商業向けと事業者向けEV充電器の違いについて、今井氏は「事業者向けは、急速充電器も基礎充電が前提というところが大きなポイント」と説明する。
EV充電器の場合、通常、基礎充電は「普通充電器」、経路充電、目的地充電は「急速充電器」が基本だ。しかし、バッテリー容量の大きいEVトラックやEVバスを運用する場合、台数や走行距離、運用形態によっては、普通充電器では充電が間に合わないケースも出てくる。そこで、事業用では急速充電器も基礎充電に含まれるというわけである。
このためBC-Pro.モデルは、2口の60kW出力とシングル50kW出力の急速充電器2機種、6kW出力の普通充電器1機種でラインアップを構成している。EVの使い方自体は事業者によって様々だが、この3タイプでほぼ網羅できるという。
BC-Pro.モデルに共通する特徴としては、まず事業用EV充電器に必要な機能に絞って搭載していること。例えば、不特定多数のEVユーザーが使うわけではないので、不要な課金システムは搭載していない。
また基礎充電では大きすぎる150kWクラスの超急速充電器もラインアップから外している。「EVトラック、EVバス側の受電能力を超えてしまうものでは基礎充電としては無駄になるし、設備も大掛かりになってしまう」という。150kWクラスの超急速充電器は公共用での需要が高まっているが、これは経路充電だからであり、基礎充電に使うにはオーバースペックになってしまうということだ。
一方、BC-Pro.モデルは信頼性の高さも大きなポイントである。事業用充電器の場合、そのトラブルはビジネスそのものを止めることになるだけに、充電器選びで最も重視される項目といえるが、これは、公共用を中心にEV急速充電器メーカーとして多くの実績を積み重ねてきた同社の強みといえるだろう。それは例えば、いすゞ自動車がエルフEVの発売に合わせて展開しているEV専用フルメンテナンスリース「EVision プレイズムコントラクト」での推奨充電器にBC-Pro.モデルが選ばれていることでもわかる。新電元の高い信頼性は、トラックメーカーも認めるところなのである。
CHAdeMO規格の上限を超える最大16時間の連続充電に対応
続いて、各機種の特徴を見てみよう。まず注目したいのが、60kW/125A出力で2口の「SDQC2F60シリーズ」と、50kW/125Aでシングル出力の「SDQC2F50シリーズ」の2機種の急速充電器である。複数台のEVトラックを配備、あるいは大容量バッテリーを搭載したEVトラックを運用する事業所に最適な充電器だ。
<2口のSDQC2F60シリーズであれば2台同時充電も可能だ>
この2機種の急速充電器の最大の特徴は、最新のCHAdeMO2.0.1規格に対応しつつ、さらに独自の自動延長機能を搭載することで、「最大16時間」の連続充電に対応していること。
CHAdeMOの場合、規格上、連続通電できるのは最大255分(4.5時間)までとなっている。このため他社のEV急速充電器は、最大で4.5時間までしか充電できない。しかし、これではEVトラックやEVバスなどバッテリー容量の大きな車両は、急速充電ではフル充電できないケースも生じてくる。
例えば、バッテリー容量200kWhの車両を、残量10%から60kW出力・2口(30kW×2)の急速充電器で充電すると想定しよう。フル充電に必要に電力は200kWhバッテリーの90%なので180kWとなる。一方、急速充電器1口の出力は30kWだが、実際には25kW程度となることが多い。そこから計算すると、フル充電には180÷25=7.2時間が必要となる。
通常の急速充電器では、充電が4.5時間で終了してしまうので、容量の半分強までしか充電できない。これでは大容量バッテリーを搭載したEVトラックでも、使い方が限られてしまうことになる。一方でBC-Pro.モデル急速充電器ならば、16時間まで充電が続くので、夜のうちに満充電にすることができ、大容量バッテリーの能力をフルに活かすことができるというわけだ。
またEV急速充電器では、夏の暑い日や長時間利用などで装置が高温になると、充電出力が低下する「温度抑制」が起きるが、PC-Pro.モデルも含め、新電元の急速充電器ではこの温度抑制が生じないのも大きな特徴。いわば「夏バテしない急速充電器」である。これも急速充電器メーカーとして長い実績と豊富なノウハウを積み重ねてきた同社ならではの強みといえる。
徹底的にシンプルさにこだわった「見せない普通充電器」
一方、普通充電器は小型でシンプルな、その名も「見せない普通充電器」をラインアップしている。本体は駐車場の輪止めブロックよりも小さい超コンパクトサイズで、地面・壁面・天井・斜面に設置可能なことに加え、さらに2トントラックに踏まれても壊れない強度と、冠水にも耐えられる防水性能も実現しているのが特徴だ。
天井から吊り下げて使うことも出来るため、狭い事業所やレイアウトが複雑な事業所でも扱いやすい。さらに本体を固定する必要もないので、車両の駐車位置に合わせて移動することもできる。イベント等で一時的に別の場所に移動して使うといったことも可能だ。
同社としては、事業用としての使い勝手の面から急速充電器を推奨していきたいというが、「1日の走行距離が短い使われ方をする事業者の場合は普通充電で運用出来るし、また現段階だとEVを試験的に1台導入してみる、といった事業者も多い。その場合、最初から急速充電器ではなく、まずは普通充電器で運用し、数年後EVトラックの数が増えたら急速充電器を導入を検討していただくと良いと思います」と今井氏。運用のしやすさはもちろん、費用面も含め、まずはEV導入の敷居を下げるという点でも、この「見せない充電器」は非常に魅力のある充電器といえるだろう。
2024年はサービスの充実で、より導入しやすい環境に
2024年は、これまで以上にEVトラックの導入が進むものと予想されるが、その中で、同社はどのような展開を考えているのだろうか。
今井氏は「事業用分野では、2023年にBC-Pro.モデルをラインアップし、ハードウェアは整備できました。そこで今後は、これに付随するサービス、ソフトウェアの拡充を進めていきます」と語る。「物流の中継拠点で多くの企業が共同で使う場合や、個社でも充電の運用管理を行う時に、どの車がどれぐらい充電したのかという管理をしたいというニーズがある。ランニングコストの振り分け、充電器設備の割り当て等にマネジメントが必要となるが、そのようなサービスとの組み合わせを順次対応していく」という。
一例として「見せない普通充電器」では、今年に入ってユビ電やユアスタンドの認証サービスに対応したが、今後も多くのサービスに対応していく予定だ。同様に急速充電器も運用管理や決済認証など、多くのサービスに対応していくという。
「2024年は、ハードウェアだけではなく、サービス面からもEV充電器を選びやすくなってくるタイミングと捉えている」と今井氏。「充電インフラメーカーである新電元の責任として、2023年はハードウェアの環境を整えました。次の段階として、2024年はサービスが重要になり、その多様化が一気に進むと思います」。
2023年はEVトラックの車種が一気に増えたが、このため多くの事業者がEVトラックを導入できるようになった。これはまた各事業者のニーズに合わせた幅広い運用システムや管理システムへの対応が求められるということでもある。
このようなソフトウェアが整備されて初めてEV導入の土台が完成するといえるだろう。カーボンニュートラル実現に向けたEVトラックの普及拡大という点からも、今後の同社の取り組みには大いに期待されるところだ。
(取材・執筆 鞍智誉章)
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