公正取引委員会/「道路貨物運送業」独占禁止法Q&A該当行為113社・労務費転嫁指針で256社に注意喚起文書送付

2025年12月19日 14:00 / 経営

公正取引委員会は12月15日、「2025年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果を発表した。調査結果によると、道路貨物運送業では、独占禁止法Q&Aに該当する行為が認められた発注者113社、労務費転嫁指針上の独占禁止法と取適法違反の要件に直接結びつく発注者としての行動指針に沿った行動を採らなかった256社に対して注意喚起文章を送付した。

※道路貨物運送業は、日本標準産業分類(2023年7月告示:総務省)上の中分類に基づいている。一般貨物自動車運送業、特定貨物自動車運送業、貨物軽自動車運送業、集配利用運送業、その他の道路貨物運送業を対象にしている。

公正取引委員会は、価格転嫁円滑化に関する政府全体の施策「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」に基づき、2022年2月16日、公正取引委員会のウェブサイト上の「よくある質問コーナー(独占禁止法)」(独占禁止法Q&A)において、独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の一つに該当するおそれがある行為を明確化している。

具体的には、「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと」の2点を指摘している。

また、2023年11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費転嫁指針)を策定・公表し、2024年度に「特別調査」を実施。2025年度は、価格転嫁の状況や労務費転嫁指針のフォローアップ等の把握を目的として調査を実施した。

<田中室長>
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公正取引委員会の田中修優越的地位濫用未然防止対策調査室室長は、「2024年の調査結果では、大企業と中小企業の取引においては一定程度、価格転嫁が進んでいるもの、全国的にみると、中小企業同士の取引においては、価格転嫁に課題がある結果がでている。中小企業の賃上げを可能する環境を整備するために、価格転嫁の進捗が重要であり、今回の調査では、特に中小企業同士の取引を重点的に着目して、全都道府県で立入調査を462件実施するなどして、調査を実施した。その結果、改めて中小企業間の取引など、サプライチェーン深い層(多重下請の末端に行くほど)での価格転嫁が十分に進んでいないことがうかがわれた」と調査概要を説明した。

2025年度は、コストに占める労務費の割合が高いこと又は労務費の上昇分の価格転嫁が進んでいないことが判明した業種21業種 (労務費重点21業種)を含む43業種を調査対象業種とした。事業者11万社に対し、コスト上昇分の価格転嫁が適切に行われているか、労務費転嫁指針に沿って行動しているかなどについて、受注者・発注者の双方の立場での回答を求める調査票を発送した。

道路貨物運送業では、通常調査では1359社が回答し、独占禁止法Q&Aに関する注意喚起90件、労務費転嫁指針に係る注意喚起221件を実施した。

また、2024年度調査で注意喚起対象者となった社に対するフォローアップ調査では、独占禁止法Q&A調査に対して174社が回答、内23社に注意喚起を行った。労務費転嫁指針調査への回答数は240社で、内35社に注意喚起した。

2025年度は、全体で、独占禁止法Q&Aに該当する行為が認められた発注者4334社に対し、独占禁止法Q&Aに係る注意喚起文書を送付した。通常調査の回答者数に占める注意喚起文書送付対象者数の割合は、2022年度調査21.2%、2023年度調査14.7%、2023年度調査13.3%、2024年度調査9.8%と低下傾向にある。

2025年度調査を実施する前に、2年度連続で注意喚起文書送付の対象となった発注者2357社に対し、個別に、独占禁止法Q&Aの理解促進と労務費転嫁指針の周知を図ったところ、2025年度調査において、大半は注意喚起文書送付の対象から外れた。3年連続で注意喚起文書送付の対象となった社は44社に減少した。

<労務費転嫁指針のフォローアップ結果>
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出典:「2025年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(概要)

労務費転嫁指針の認知度は、約60%と一定程度進んだが道半ばの状況。他方、労務費転嫁指針を知っている事業者の方が、価格交渉において、労務費の上昇を理由とする取引価格の引上げが実現しやすい傾向は継続した。労務費に係る価格協議は、多くの取引について行われるようになっている。

労務費の要請受諾率は2024年度調査より上昇した。他方、労務費の要請受諾率の状況をサプライチェーンの段階別にみると、製造業者等から一次受注者、一次受注者から二次受注者等と段階を遡るほど、労務費の要請受諾率は低くなり、価格転嫁が十分に進んでいない状況に変わりはなかった。

立入調査においては、岩手県で、「道路貨物運送業者A社は、荷主から受託した住宅用の木材等の運送業務の一部を運送業者(受注者)に委託していた。A社は、荷主との取引価格について、荷主の多くが引上げを認めてくれないため、受注者との取引価格について、受注者から引上げの要請があったものの、引き上げることは困難であるとして、コスト上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格交渉の場において協議することなく据え置いていた」といった事例も確認された。

中小企業で、価格を据え置いた理由を聞いたところ、「中小企業自身が発注者である一方で、別の取引においては受注者の立場にあり、別の取引の発注者が取引の価格引き上げを認めてくれない。そのため、自身が発注者となる取引において、取引価格を引き上げる原資がない」事情があった。また、「発注者が価格協議を行うことにそもそも積極的ではない。受注者が申し出をするまでは協議しない。受注者が価格協議を言ってくるのを待っている」という理由も多かった。

そのため、要請受諾率は、サプライチェーンの段階を遡るほど低くなり、価格転嫁が十分に進んでいない。また、サービス業のサプライチェーンにおいて、サービス提供業者(元請)や各段階の受注者がその先の取引先受注者からの価格転嫁を受け入れるための原資となるサービス提供業者(元請)から需要者(事業者)への価格転嫁が十分に進んでいない状況がうかがわれた。

労務費転嫁指針の認知度はいまだ約60%にとどまっているところ、同指針を知らなかった事業者において労務費の価格転嫁が低調だった。通常調査の回答者数に占める注意喚起文書送付件数の割合が低下しているものの、依然として協議を経ずに取引価格を据え置いている発注者が存在するが浮き彫りになった。

公正取引委員会は今後、「労務費転嫁指針及び独占禁止法Q&Aの普及・啓発」「労務費転嫁指針及び価格転嫁円滑化に関する調査の継続実施」「優越的地位の濫用行為等に対する厳正な法執行」「取適法施行・周知等」を進めることで、価格転嫁の円滑化を支援する。

2025年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について

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