トラック最前線/運送事業者の課題を解決するブリヂストンの取り組み

2024年02月02日 13:27 / トラック最前線

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人手不足や環境対応、安全性のさらなる確保など、物流・運送業界を取り巻く変化に伴い、運送事業者の抱える悩みも変わりつつある。そのような中で注目されるのがブリヂストンの取り組み。物販型の売り切りモデルのタイヤビジネスから脱却し、その先まで価値を提供し続け、顧客に寄り添うソリューションビジネスへと変化を続けている。その現状と今後の展望について、ブリヂストンタイヤソリューションジャパンTB・LTソリューション事業本部の原田祐輔TB・LTソリューション事業推進部長と、ソリューションネットワーク企画開発運営本部の橋元賢志B2Bソリューションネットワーク企画開発運営部担当部長にお聞きした。(取材日:12月22日)

ソリューションビジネスの中核となるリトレッド

昨今、物流・運送業界を取り巻く環境は急速に変化している。ドライバー不足や高齢化、燃料価格など物価の高騰、脱炭素対策などに加え、今年4月からはドライバーの時間外労働上限規制も始まる。その中で運送事業者としては、安全な運行を確保しつつ、業務の効率化を図り経費も削減、同時に環境負荷低減も進めるという難しい課題に取り組まなくてはならない。

このような市場変化を捉え、ブリヂストンが推進しているのが、循環型のバリューチェーンを基本としたソリューションビジネスへの取り組みだ。「従来はタイヤを作って、販売して終わりという一方通行に近い物販型ビジネスモデルが主流。これをサイクルを回す循環型のバリューチェーンに変えていく。販売した後、タイヤを使っていただいている段階でも、我々が価値を提供していく仕組みにしていきたい」(原田氏)という。

<ブリヂストンタイヤソリューションジャパン TB・LTソリューション事業本部 原田祐輔TB・LTソリューション事業推進部長>
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その具体的な取り組みの中核として、同社が現在力を入れているのがリトレッドタイヤである。摩耗したタイヤの表面を削り、新しいトレッドゴムを貼り付けて再利用を可能にすることで、資源使用量、CO2排出量ともにほぼ半減 (新品タイヤ3本と、新品低燃費タイヤ1本・リトレッド2回で比較した場合)できるという。もちろん、コスト削減効果も両立できる。

つまり、リトレッドタイヤを使うことで、経費削減、環境負荷低減につながるというわけだ。これは顧客の課題解決策であると同時に、タイヤメーカーとしてもカーボンニュートラル実現という社会的な課題の解決策でもある。ブリヂストンは、使用済みタイヤのリサイクルも含めて、バリューチェーン全体を循環するようなサイクルの実現を2050年を目標に目指しているが、これを実現する大きな柱といえるだろう。

そのようなところから、同社のトラック・バス用タイヤは、リトレッド前提で設計しているという。このためタイヤケースの耐久性が高く、使い方にもよるが2回のリトレッドも可能であり、これもブリヂストンの強みの一つとなっている。もちろん品質面でも「ブリヂストンのブランドで売る以上、新品並みの品質管理をしています」と原田氏は胸を張る。

加えて同社では、ユーザーが使ったタイヤをリトレッドして、同じユーザーに戻していることも顧客にとって安心できる理由だ。「自社台方式といって、お客様のタイヤを預かって、リトレッドしてお客様に戻します。お客様がそれまで使っていたタイヤですから、タイヤの履歴も明確です」。どこでどう使われていたか不明なタイヤをベースにしたリトレッドタイヤは顧客が不安に感じるのも無理はない。その点、自社台方式ならば、安心して使えるというわけである。

とはいえ、リトレッドは安いが品質はそれなり、というかつてのイメージが一部のユーザーには残っているのも事実だ。

そこで、説明だけではまだ不安が残るという顧客のために、工場見学も実施している。その製造工程を実際に見るとリトレッドタイヤに対してのイメージが変わり、納得してもらえるという。百聞は一見に如かず、である。

なおブリヂストンではリトレッドを行う拠点が全国に13拠点もあるが、これも自社台方式を実現できる大きなポイントとなっている。「リトレッドは、タイヤをお預かりしてお戻しするというサイクルをクイックに回さないと成立しないサービスです。そのため、顧客の近くにあることが非常に大事。全国各地域でクイックに回収してお戻しする体制が出来ているのも、ブリヂストンの強みです」(原田氏)。

このような取り組みもあり、リトレッドタイヤ市場は大きく伸長を続けている。本数べースでは2000年代後半に比べて2倍近くになっており、大型車の場合、半分以上の車両にリトレッドタイヤが使われるまでになっている。ただし小型トラックでは、まだその割合は低く、今後の課題といえる。

ちなみにリトレッドタイヤの国内シェアは、ブリヂストンがトップ。リトレッドタイヤはリサイクルサービスなので、ベースとなる新品タイヤのシェアが反映されやすいことも大きな理由だが、同社の積極的な推進が原動力となっていることは間違いないだろう。

高品質なタイヤ技術が基本を支える

一方、タイヤそのものも大きく進化している。その代表といえるのが、ブリヂストンの開発した新しい設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」だ。これは車両のハンドリングなどの運動性能や摩耗性能を維持しながら、タイヤ重量を軽量化することで、タイヤの転がり抵抗を大幅に低減するものだ。これにより、走行時のタイヤ起因によるCO2排出量を削減し、環境負荷低減に貢献するという。

トラック・バス用タイヤではスタッドレスタイヤのW999から採用が始まっており、今後も順次ラインアップを拡大していく。2030年には約90商品に搭載し、搭載率約70%を目標に掲げている。

<「ENLITEN」(エンライトン)をトラック・バス用タイヤに初めて採用した「W999」>
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そして、もう一つ注目されるのが、低燃費タイヤ「エコピア」だ。低燃費性能、タイヤライフ、ウェット性能をバランスよく確保したタイヤで、市場からの人気も高い。特に燃費の改善効果の高さは、燃料が高騰している現在、大きなインパクトがある。と同時に、燃費が良いということはCO2排出量が削減できるということでもあり、採用する運送事業者が増えているという。

つまり、これらの高性能タイヤを新品で使い、これをリトレッドしていけば、安全性、環境性、経済性とも優れた使い方ができるというわけである。

安全性と業務効率化を実現するTPP

リトレッドや低燃費タイヤなど、タイヤ技術が急速に進化している一方、先に触れたように運送事業者の経営課題やニーズも変化してきている。特に業界全体で人手不足が続いているだけに、業務の効率化は大きな課題だ。

そこで注目されるのが、ブリヂストンが展開しているサービス「TPP(トータルパッケージプラン)」である。車両や走行条件に最適なタイヤの提案・提供から、タイヤの管理やコンサルティング、メンテナンスなど、タイヤに関する各種のメニューを組み合わせ、顧客の要望に合わせてカスタマイズして提供していくというサービスである。

その特長の一つが、豊富な選択肢が用意されていること。自社整備の有無や車両台数、また地域によっても運送事業者のニーズは異なってくるが、最適な選択が可能になっている。

まず基本プランは、タイヤの選択からメンテナンスまで含めた標準の「トータルパッケージプラン」と、メンテナンスを除いた「トータルパッケージライトプラン」の2つを設定。また支払い方法はサブスクリプションだが、これも月次定額支払いと従量課金払いから選べる。

また、空気圧の遠隔モニタリング「Tirematics」や、車両位置情報管理「B-catcher」などオプションメニューが充実しているのが特徴だ。Tirematicsでは、車庫に戻ったタイミングで運行管理者にタイヤ空気圧情報をクラウドサーバーからメール送信する「ヤードモニタリング」からスタートしたが、22年からはユーザーの要望に応えて、空気圧と温度をドライバーも常時確認できる「リアルタイムモニタリング」を追加するなど拡充が続けられており、細かな選択が可能である。

<TPPのラインアップ>
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自社の状況に最適な内容が選べることもあって、契約事業者は急増しているという。「多くの事業者が人手不足に悩む中で、メンテナンスや点検管理、発注や予算管理といったタイヤのマネジメントはますます重荷になっています。そこで、それをブリヂストンが担うというわけです。タイヤのプロにアウトソーシングいただくことで、タイヤの取り扱いのレベルが上がり、運送事業者の大きな課題である業務効率化と安全性が両立できる、というわけです」(原田氏)。

例えば、リトレッドタイヤを活用しようとする際、タイヤの交換時期がポイントになる。しかし、「タイヤをギリギリまで使ってしまうと、傷んでしまってリトレッド出来なくなってしまう。タイヤの状態を見て、その頃合いを判断するのはノウハウも必要で、運送事業者さんが独自でやるのは難しいんです」と原田氏。TPPであれば、リトレッド不可になるまで新品タイヤを使い切ってしまうような失敗も防げるというわけだ。

また、サブスクという支払い方法も、大きなメリットとなっている。「例えば、スタッドレスに履き替える時期になると、車両が多い事業者さんでは、多くの費用を一気に支払わなければいけなくなりますが、サブスクなら、これを均すことができ、予算管理も楽になります」。この辺りも好評なポイントとなっているようだ。

さらに昨年にはTPP導入企業を対象に、自動車保険(フリート契約)の保険料を約5%割り引く「タイヤメンテナンス特約」をあいおいニッセイ同和損保が提供を開始した。これは、タイヤのプロがマネジメントすることで、タイヤに起因するトラブルや事故が減るということの証明である。毎年、大型車の車輪脱落事故が多く発生しているが、このような事故を防止する上でも、TPPは有用である。TPPは約9割の顧客が契約を更新するというが、それも納得できる。

ブリヂストンの価値を顧客に提供するB-select

さて、ブリヂストンでは、ENLITEN採用タイヤなど価値のあるプレミアム商品やTPPに代表されるデジタル技術を活用したサービスを展開しているが、これらは実際に現場で顧客の立場に立って最適な提案や商品やサービスの提供を行って、初めてその価値が実現される。

そこで、その拠点として昨夏からスタートしたのが「B-select」と呼ぶソリューションネットワークだ。

「もともとブリヂストンは販売店ネットワークの拡大・強化を進めてきていましたが、この強みを活かしながら、B-selectとしてソリューションビジネスを一緒に進めていく販売店パートナーを増やし、、お客様に近いところで、よりしっかりとお届けする体制や人財作りに注力しています」と原田氏。

このB-selectは乗用車のユーザーに対応する販売店と、トラック・バスなど輸送事業者に対応する販売店があるが、輸送事業者に対応する販売店は、23年12月時点で470以上の店舗がB-selectとなっており、今年中には500店舗超を目指すという。

「ソリューションネットワークであるB-selectの趣旨に賛同していただき、ブリヂストンの作業標準をしっかりと守れる販売店をB-selectとして認定しています。直営店以外の販売店でも予想以上に賛同していただけるところが多く、初年度の目標は直営店以外で300店舗としていたのに対して、目標を上回る店舗数となりました」と橋元氏。

<ブリヂストンタイヤソリューションジャパン ソリューションネットワーク企画開発運営本部 橋元賢志B2Bソリューションネットワーク企画開発運営部担当部長>
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B-selectはまだスタートしたばかりだが、順調な立ち上がりとなり、ブリヂストンの取り組みが、タイヤ販売店からも大きく期待されていることがわかる。それは顧客である運送事業者にとって、大きなメリットがあると実感しているからだろう。販売店は顧客との直接の接点であるだけに、顧客に自信をもって提案できる商品か否か、その判断はシビアだ。

それだけに、今後はさらに質の高さが求められていくことになる。そのため「ソリューションを提供していく販売店に必要な研修メニューを提供し、レベルアップを図っていく」(橋元氏)という。

原田氏も「顧客の課題に寄り添い続ける為には、ソリューションビジネスを提供するネットワークや人財の強化が必須。顧客、販売店、そして我々ブリヂストンが高い次元でWIN-WIN-WINとなる形を目指し、今後も総合的なレベルアップに取り組みたい。」という。

トラック輸送業界全体が大きな変革期を迎えている現在、顧客が抱えている課題や事業体系も変化していく事が予想される。そこに寄り添えないと、独りよがりになってしまうと原田氏。「しっかりと顧客とつながり、新たな顧客の課題を捉えて、そこに合わせながら我々の提供するものも変革していく。そういうサイクルが出来ると、ブリヂストンが目指す将来像に近づいていくと考えています」。

(取材・執筆 鞍智誉章)

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