
2017年に国内初の量産型EV小型トラック「eCanter」を導入して以来、EVトラック分野のトップランナーとして市場をリードしてきた三菱ふそうトラック・バス。2023年も新型eCanterを発売し、その可能性を大きく広げた。また10月には大型トラック「スーパーグレート」を一新。物流の「2024年問題」により輸送の効率化が急務となる中、大型トラックに求められる快適性や安全性を高めるとともに、より優れた燃費性能も実現するなど、現在の物流業界のニーズに応える取り組みを具現化している。その三菱ふそうトラック・バスは将来のトラックをどのように捉え、対応していくのか。同社のカール・デッペン代表取締役社長に伺った。
取材日:10月25日
新たな取組みが続きワクワクした23年
-- 2023年は新型eCanterの発売、日野自動車との統合に向けた発表、新型スーパーグレートの発表などありました。振り返ってみていかがでしょうか。
デッペン:非常にわくわくする年でした。まず新型eCanterは、国内だけではなくヨーロッパでも量産を開始しました。また5月には将来を志向した発表を日野自動車、トヨタ自動車とさせていただきました。インドネシアのパートナーさまとの50周年もございました。
そして大きな目玉として、新型スーパーグレードをジャパンモビリティショーでお披露目させていただきましたし、ダイムラートラックとしては、新しい「RIZON」ブランドをアメリカで発表しました。
<6年ぶりにフルモデルチェンジした大型トラック「スーパーグレート」>

-- 新たな取り組みが多かった1年でしたね。
デッペン:自動車業界は100年に一度の変革期にあるといわれますが、業界全体が多くのこの変化を乗り切っていかなくてはなりません。このような時代に考えなくてはならないのは、お客様はメーカーから強いサポートを必要としているということです。
お客様は、ゼロエミッション技術を輸送に取り入れたいと思っています。ドライバーの労働時間が短くなる、物流の2024年問題についても対応しなくてはいけません。そしてもちろん、効率の良い信頼のできるトラックが必要とされています。
-- 大変革期だからこそ、自動車メーカーへの期待が増します。
デッペン:三菱ふそうは、お客様に対して本当に効率の良い解決策を提供できることを本当にうれしく、また感謝しております。お客様を成功に導くために、懸命に取り組んでいます。
ドライバー、事業者ともに満足できる環境を提供
-- 今、日本の物流業界は2024年問題への対応が急がれていますが、どのように見られていますか。
デッペン:既にドライバーが不足していますが、新しい労働時間規制が始まることで、これからもっと厳しくなります。とにかく、いいドライバーを獲得する競争になると思います。お客様のこの課題について、私たちも助けていきたいと思っております。
新型スーパーグレードを出したのも、それが理由です。ドライバーにとってトラックは職場ですから、内装をアップグレードし、居住空間も広くしました。インテリアのデザインも魅力的なものに一新しております。安全性も強化し、安全機能、そしてドライバーをアシストする機能を拡大しました。操作性も良く、先進の空力性能を採用した非常に効率の良いトラックになっています。
<上質で居心地の良い新型スーパーグレートの室内>

-- ドライバーの負担を減らすトラックになっているわけですね。事業者に対してはいかがでしょうか。
デッペン:2024年問題に対して、お客様は効率性を求められています。この新型スーパーグレートは燃費効率も良くなりました。標準装備しているトラックコネクト(稼働中の車両情報をインターネット経由でリアルタイムにチェックできるテレマティクスサービス)のソリューションでは、最先端のコネクティビティ技術を導入しております。
また、我々は新世代の配送計画システム「ワイズ・システムズ」を提供しています。このワイズ・システムズを使うことで、運行管理者はより最適にトラックを使うことができますし、また効率性を高めることができるようになっています。
さらに三菱ふそうでは、走行距離に応じて支払うという、距離連動型リース「FUSOマイレージリース」を用意しています。走行距離が短いと支払いが少なくなり、効率よくトラックを使うことができます。
このように、我々はあらゆる側面からお客様を支援したいと思っています。そして、さらにご要望があれば、それにお応えしていきたいと思います。
-- 安心かつ効率的にトラックを運用できるプログラムが用意されていますね。
デッペン:ドライバーには魅力的な居住空間を提供し、同時に事業者には運行管理を強化していただきたいと思います。トラックコネクトで車両をしっかり管理し、ワイズ・システムズによって効率的な運行管理を行う。無駄のないルート計画ができますから、マイレージリースを使えば、トラックを無駄なく所有することができます。
パートナー企業と一緒に取り組み、ゼロエミッションを実現
-- 三菱ふそうさんでは、2039年までに100%電動化という目標を掲げています。そこに至るまでのロードマップをどのように考えていますか。
デッペン:ダイムラートラックとして、2039年までに日本とアメリカ、そしてヨーロッパで全車ゼロエミッション車両にする予定です。eCanterがその第一歩であるということは、しっかりとお見せできていると思いますし、小型EVトラックのセグメントではリードしています。
しかし、中型・大型EVトラックになると、バッテリーの重量が増え、そして積載量という観点からも少し状況が複雑です。大型のバッテリーレンジになると、走行距離を管理するのが難しくなります。バッテリーサイズを確保して走行距離を高めようとすると、積載量が減ってしまいます。
特に大型EVトラックになると、インフラ整備も難しくなります。充電器とのインターフェースも重要です。小型EVトラックは普通充電が使えるので簡単ですが、大型になると充電に効率の高いものが求められます。
水素についてはまだインフラが整っていません。ただ全ての技術に対して取り組んでおり、EV、FC(燃料電池)、水素エンジンなど、一番良い解決策を考えていきたいと思います。特に日本市場に最適なものを選んでいきたいと思います。
-- 欧州では大型トラックものEV化が進んでいるように見えますが。
デッペン:ダイムラートラックでは、欧州で大型EVトラックの「eアクトロス」を発表しました。ただこれは、非常に高性能な充電機能、1メガワットの充電システムが必要になります。日本ではそれがありませんので、現状では導入は難しいです。
-- 地域ごとのインフラに合わせた提案が大事ですね。
デッペン:インフラとトラックが、同じペースで進んでいかなくてはいけません。卵が先か鶏が先かという問題に陥らないようにしたいと思います。そうでないと、インフラはあってもトラックがない、またはトラックがあってもインフラがないという状態になってしまいます。ですからこの点については、他のパートナーと一緒に取り組んで、両方を同時進行させなくてはならないと思っています。
その一つとして、ジャパンモビリティショーでは、「eCanter」のバッテリー交換式モデルと交換ステーションを披露しましたが、これは米アンプル社と一緒に取り組んでいるものです。
<バッテリー交換技術のイメージ>

多くのパートナー企業と取り組むことで、革新を続け、ゼロエミッションを実現していきたいと思います。ただ実現までは時間がかかりますから、その間までの道のりとして、ディーゼルエンジンをもっと効率良くしていく。新型スーパーグレードもその一つです。
-- 全部同時進行というわけですね。
デッペン:そうですね。今の段階で、まだ一つの技術に限定するのは時期尚早です。トラックの使用用途は幅広い。通常の配送で使われるお客様、冷蔵・冷凍機能が必要なお客様、建設業者、クレーンも必要です。全ての用途で同じ技術が使えるわけではありません。オープンに、一緒にお客様と学び、お客様、パートナー様と一緒に取り組んでいく必要があります。そしてソリューションを増やしたいと思います。
--特に中大型トラックは水素なのかEVなのか合成燃料なのか、まだ結論が出ていません。
デッペン:欧州、北米、中国も同じです。したがって、それぞれ開発を進めていく必要がありますが、私たちだけで全てを開発するのは難しい。ですが、最終的には決めていく必要があります。
これは歴史的な流れなんです。輸送業界の歴史的なシフトだと思っています。100年に1度の。これまで輸送業界はディーゼルだけを使ってきました。これからまったく別のものに行くわけですから、時間がかかるでしょう。
ただ、三菱ふそうとして、創造性とオープンな考え方を持っています。そして、この動きを日本でリードしたいという強い気持ちを持っています。
変革に伴うお客様の負担を軽減
-- 将来的に、三菱ふそうをどのようなブランドにしていきたいと考えていますか。
デッペン:三菱ふそうは、常に頼れるブランドであり続けてきました。今後も、パートナー様、お客様と一緒に将来を形作っていくことに集中していきたいと思います。
輸送は非常に大きく変わろうとしています。お客様と共に、お客様のニーズをしっかりと理解し、お客様が引き続き私たちを頼りにしていただけるようにしたい。信頼できる、安定できる、手の届く技術を提供することによって、お客様の事業がうまくいって欲しい。
輸送が、ディーゼルからゼロエミッションに変わりつつあります。これをできるだけスムーズに移行できるようにしたいと思っています。お客様がご自身のビジネスだけに専念できるよう、そのお手伝いを私たちにやらせていただければと思います。
-- 現状で何が課題だと考えていますか。
デッペン:課題はたくさんありますが、現在は多くのお客様に、納車をお待たせしてしまっていることです。
コロナがあり、半導体不足があり、その影響でまだ受注残が多く残っている状況ですので、最優先課題としてこの問題解決のために懸命に取り組んでいます。サプライチェーン全体で、オペレーションをしっかりと管理し、お客様にできるだけ早く新車をお届けできるように取り組んでいます。
ただ、同時に将来にも目を向けなくてはなりません。商品のラインアップをゼロエミッションに変えていく必要があります。
自動車産業は日本の基幹産業でもあり、日本のブランドは東南アジアでも非常に強い。しかし、新しいライバルが東南アジアや中東でも台頭してきていることも理解しています。商品ラインアップをゼロエミッションに変えていくことで、私たちは東南アジアでの、また中東での足場というものを守っていきたいと考えています。
-- 24年からも期待できそうですね。
デッペン:小型トラックのバッテリー技術で、私たちは市場を牽引しています。ジャパンモビリティショーでも最新の技術もお見せいたしましたが、日本市場だけでなく、海外でも商品ラインアップをさらに強化していきたいと思います。
私どもが技術のパイオニアとなって、ソリューションを市場に持っていくことができるということをeCanterでお見せしました。引き続き、ゼロエミッション技術をあらゆるセグメントで進めていきたいと思っています。
(取材・文 鞍智誉章)
■カール・デッペン氏略歴
1990年ダイムラーグループ入社、主に商用車を中心に、購買や物流分野を担当し、米国やトルコ、日本で勤務。日本ではMFTBCで購買と輸送物流部門の責任者を務める。2007年からメルセデス・ベンツブランドトラック「アテゴ」の戦略的プロジェクト管理責任者、ダイムラー社のグローバル経営責任者、ダイムラーグレーターチャイナ社CFO、メルセデス・ベンツブラジル社CEOを経て、2021年12月より現職。
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