トラック最前線/水素活用を加速させる、iLaboの水素エンジン開発
2023年12月04日 15:27 / トラック最前線
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運輸部門のCO2排出量削減への取り組みの中で、今後の動きが注目されるのが中大型トラックへの対応だ。FC(燃料電池)トラックの普及拡大に期待されるが、既存トラックの大部分を代替していくには車両価格の高さが大きな課題となる。そこで期待されているのが水素エンジンを開発しているiLabo(東京都中央区)。同社の小松久宣執行役員 営業本部長に、脱炭素化への課題解決を目指す同社の取り組みについて聞いた。
取材日:11月8日
低コストでCO2排出量をゼロにする水素エンジン
地球温暖化対策としてCO2排出量の削減が求められる中で、大きな課題といえるのがトラックだ。国交省によれば、2021年度における日本のCO2排出量のうち、運輸部門が17.4%を占めており、その39.8%がトラック輸送によるもの。したがって、トラックのCO2排出量をいかに減少させるか、その対策は急務といえる。
しかし、特に中大型トラックの対応は課題が多い。実用化に向けてFC(燃料電池)大型トラックの実証実験もスタートしているが、車両価格が通常のディーゼルよりも大幅に高くなってしまうため、早期の普及拡大は難しい。
ちなみに水素燃料電池車ではバスの実用化が先行しているが、ディーゼルエンジンを搭載する通常の一般路線バスの車両価格が約2500万円であるのに対し、燃料電池バスは約1億円と、ほぼ4倍。現状ではFCトラックは市販されていないので正確にはいえないが、トラックも同じような価格差になるだろう。
これではディーゼルトラックからFCトラックへの代替は難しい。つまり、中大型トラック分野でのCO2排出量削減は、なかなか進まない、ということになってしまう。
そこで注目されるのが、iLabo(東京都中央区)が開発を進めている水素エンジンだ。これは既存のディーゼルエンジンを改造し、燃料を水素に変更するもの。「水素化コンバージョン」と呼ばれている。FCVは水素と酸素の化学反応で得られた電気を使ってモーターで走行させるのに対して、水素エンジンは水素を燃焼・爆発させて動力を得るのが大きな違いだ。水素がエネルギー源となるため、どちらもCO2を排出しない点では共通している。
水素エンジンの特徴は、何といってもコストが低いことだ。FCトラックのように、高価な燃料電池(FCスタック)やバッテリーは不要、既存のディーゼルエンジン車を改造するだけなので、費用としては「FCトラックの3分の1、EVの2分の1程度」(小松氏)で、補助金が適用されることになれば、乗用車1台程度のコストでトラックが水素で走れるようになるという。費用の負担が少なければ導入の敷居は格段に低くなる。
脱炭素化を実現するために、現在走っているトラックをすべてFCトラック、EVトラックに置き換えるのは現実的ではない。だが、水素化コンバージョンも活用すれば、多くのトラックを水素で走行させることが可能になるというわけだ。
「水素化」改造は整備工場で対応可能、安価に脱炭素化を実現する
ディーゼルエンジンを水素化するにあたっての改造は、それほど大掛かりなものではない。エンジンの燃焼方法がディーゼルエンジンと水素エンジンで異なるので、いくつかの部品を交換する程度だ。具体的には、ディーゼルエンジンの圧縮着火方式から、ガソリン車のように予混合燃焼方式、つまり空気と燃料をあらかじめ混合し、スパークプラグで着火、燃焼させる方式に変更する。
実際に運転したドライバーによれば、改造前のディーゼルエンジンに比べて、加速感などガソリン車に近い感覚になるという。静粛性も向上するというが、これも燃焼方式が変わるためだろう。
<10月に開催されたジャパントラックショーin富士スピードウェイで、レーシングコースを走行する水素エンジントラック>
現在同社が実証を行っている中型トラックいすゞ「フォワード」の場合、コモンレール式直噴エンジンの「4HK1」を搭載している。このエンジンに、まずスパークプラグを設置、そして水素エンジンでは不要なコモンレールを外して代わりにインテークマニフォールドを装着する。さらにスロットルチャンバーの設置、ピストン冠形状、エンジンオイル等を変更する。またピストンリング、ピストン、ヘッドなど、水素の通り道にあるパーツも、水素脆化に強い材質に変更する。
一方、水素燃料供給系では配管やセンサー類の追加などを行う。現在の車両は4本の水素タンクを荷室前部に配置。水素タンクの搭載量は2.6kgが3本、2.1kgが1本で合計9.9kg。圧力70MPaの高圧水素タンクで、設計値としては約200kmを走行できるという。
ただ、水素タンクを搭載することで荷室は約50cm短くなり、パレットが1列分入らなくなるのが課題。そのため、今後はタンクの搭載位置を変更し、荷室容量を犠牲にせずに、航続距離を延ばせる最適な形にしていきたいとしている。
交換、追加する部品の点数は少なくないが、交換・取付作業自体は通常の整備業者で可能なレベルだという。同社ではこれを部品キットとして全国の自動車整備工場に提供していく方針だ。改造や整備にあたって特別な技術や装置が不要なのも、普及拡大の面で優位なポイントといえるだろう。2024年には事業化を開始、同時にいすゞ4HK1以外の各社主力トラックに搭載されているエンジンについても、開発を進めていくとしている。
水素インフラ整備が大きな課題
11月には、この水素エンジン搭載トラックを使い、実貨物を搭載した物流業務を行う実証走行試験が開始された。
実証走行試験では、羽田空港から東京ディズニーランド周辺ホテルの固定ルートを往復し、旅行者のスーツケースなどを運送。ホテルを回って集荷、仕分けした後、羽田空港に届け、そこでまた荷物を積んでホテルに戻って配布するというルートで実施し、出力、燃費、安全性、耐久性、ドライバビリティーなどを検証する。
その中で、水素ステーションでの水素充填作業も試験項目の一つだ。
今回の実証試験では、水素ステーションがルート途中にあるため、燃料補充の心配はない。ただ、今後、FCトラックも含めて水素で走る車両を増やすには、インフラ整備が重要性を増す。もちろんステーションの数や配置も重要だが、中大型トラックへの水素供給という点では、ステーションの敷地の大きさと充填能力も大きな課題となる。
現在の水素ステーションは、乗用車向けを想定して開設した所も少なくない。実証中の水素トラックは8トントラックなので大半のステーションに入ることが出来るが、それ以上のサイズの車両になると厳しくなる。「FCバスのSORAでギリギリ。大型トラック、大型トレーラーでは何度も切り返しが必要だったり、狭くて入れないステーションも多い」(小松氏)という。
また、現在の水素ステーションは連続充填に対応していないため、タンク容量の大きいトラックに水素を入れると、次のクルマに水素を充填できるようになるまで、長時間待たなければならない。さらに、ノズル2本での充填や流速を速めたハイフローなどの導入による、充填時間そのものの短縮化も今後は必要になるという。
活用領域が広い水素エンジン
将来的に期待される中大型トラックの水素化コンバージョンだが、同社では、発電機の水素化コンバージョンにも期待を寄せている。というのもいすゞ4HK1をはじめ、トラック用のエンジンは発電機にも多く使われているからで、「市場の立ち上がりとしては、こちらの方が早いかもしれない」(小松氏)と見ている。
「今後EVが増えてくると、電気の供給が不足する可能性がある。その時の補助電源として水素エンジンが活用できる。また建設現場や港湾、空港、鉄道など、様々なところでエンジンが発電機として使われており、これらは水素化コンバージョンに向いている」という。ビルの非常用電源などでは重油を使うものも多いが、変質しやすい重油と異なり、水素は変質しない点でも向いているという。
トラック輸送に限らず、あらゆる産業でCO2排出量の削減が求められている現在、最小範囲の改造で済む水素コンバージョンであれば、幅広い用途での活用が期待できる。トラック同様、発電機もコストや使い勝手の面でEVやFCに置き換えにくい分野であるからだ。
そのためにも、水素インフラの充実が待たれるところである。現在はまだインフラ整備もスタートしたばかりであるが、今後、水素のインフラ環境が整えば、水素化コンバージョンは一気に普及拡大していく可能性がある。トラック輸送のみならず、産業界全体でCO2削減目標達成を実現していく重要な柱となるだろう。今後の同社の取り組みに大いに期待されるところである。
(取材・文 鞍智誉章)
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