石破総理/荷主に対する価格転嫁、取引適正化の推進を表明

2025年03月17日 16:06 / 経営

石破茂総理は3月14日、総理大臣官邸で開催した「トラックドライバー等との車座」で、荷主などに対する一層の価格転嫁、取引適正化の推進、構造的な賃上げを推進する方針を表明した。

<石破総理>
20250317ishiba - 石破総理/荷主に対する価格転嫁、取引適正化の推進を表明

石破総理は、「さらなる賃上げ、環境改善など、政府としてできることを考えさせていただく。そして、賃上げのため、価格転嫁のために、必要なことをやらせていただきます。商慣行というのは、なかなか根深いものがありますので、荷主の方々の意識改革や行動が変わっていく(ことを)、強力に進めていきたいと思っています」と述べた。

その上で、「今朝、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議を開き、中野国交大臣を中心とした関係大臣に指示をした。『昨年、体制を拡大したトラック・物流Gメンによる強力な是正指導』、『来月から施工される改正物流法』、『今週閣議決定した下請法の改正法案』を契機として、荷主などに対する一層の価格転嫁、取引適正化の推進、構造的な賃上げを推進する。また、省力化投資促進プランの作成、荷主・物流事業者の意欲的な整備投資への強力な後押し、第三には物流全体の抜本的なイノベーションに向けて、政府の中長期計画の見直しを反映した、総合物流政策大綱の早急な検討を開始する」と表明した。

車座には、政府から、石破茂総理、赤澤亮正新しい資本主義担当大臣、中野洋昌国土交通大臣、古谷一之公正取引委員会委員長らが出席。また、ボルテックス セイグン(群馬県安中市)と福山通運(広島県福山市)からドライバーが参加。トラック運送事業者として、マキタ運輸(宮崎県都城市)の牧田信良社長、フジトランスポート(奈良県奈良市)の松岡弘晃社長、全日本トラック協会の坂本克己会長が出席した。

■運賃・トラックドライバー給与の上昇について

車座では冒頭、赤澤大臣が「政府が進めている価格転嫁や賃上げの取り組みが、運賃やトラックドライバーの給与の上昇につながっているか」と質問。

牧田社長は、「私どもは500トンから600トンの農畜産物を消費地に運んでいますが、南九州から消費地までは、元々が非常に運賃がかかるところにある。そして、生産者さんは飼料・肥料・農業資材などの高騰を受けている状況があり、価格交渉をする環境になっていない。まず、農産物の価格転嫁ができて、我々も堂々と価格交渉ができるような環境にしていただきたい。そういった中でも少しずつ運賃を上げて、それを給与にあて少しずつ賃上げをしているが、今年あたりは大幅な賃上げをしないと追いつかないため、トラックの更新を少し遅らせて、賃上げをやっていきたい」と語った。

ボルテックス セイグンのドライバーからは、「荷主との運賃の交渉は会社が行うことで、ドライバーの立場からは窺い知れないが、私の会社では徐々に賃金は上昇している。その一方で、長距離運送に関わるドライバーは、物流の2024年問題の影響を受けて、長距離輸送の回数が減少したため、実質の給与が下がっている現状がある。私の父親も同じ会社でトラックの運転手をしていたが、当時は、走れば走るほど稼げた。いまは、稼ぎたくとも稼げない職種になってしまったのが実感です」と述べた。

■若い世代や女性など多様な人材の獲得について

続いて、赤澤大臣から「深刻な担い手不足に対して、若者や女性など多様な人材の獲得に向けて、どのような取り組みが必要か」との問いかけがあった。

松岡社長は、「当社は奈良県に本社があり、関東、関西、九州の大型トラックの長距離輸送をメインにやっている。特に、大型ドライバーの採用が非常に難しい。長距離は好まれないということで苦労していたが、10年前からSNSに力を入れ、社員のユーチューバーを活用した取り組みが功を奏して、ドライバーの応募が増えた。現在、ユーチューバーの社員が15名いて、日ごろの長距離の姿をアップすることで、若い人から女性など、昨年1年間で従業員の採用が650名、ドライバーだけで499名採用でき、現状は採用に困っていない。我々の業界は、SNSを使った求人をしている会社が、まだまだ少ないので、SNSの活用がよかった。また、基本に戻り、ハローワークの求人をきちんと記入することで、ハローワークからの応募も増えている。いままでハローワークでは簡単な募集だったが、より丁寧に書くことによって募集が増えた。さらに、自社のホームページをしっかり作りこみ、採用ページからの採用も増えてきた。SNS、ハローワーク、ホームページを活用した採用ができている」と述べた。

また、高校卒業後から福山通運に勤務する女性ドライバーは、「若い世代や女性が働きやすくなるためには、免許取得やキャリア形成に対する支援を、業界全体で整えることが必要不可欠だと思う。また、柔軟な勤務体系や育児支援が充実することで、特に、小さな子供がいる家庭は、仕事と家庭を両立できるようになり、より多くの女性が活躍できるようになると思う。さらに、SAなどに女性専用の休憩室や仮眠施設を整備することも、女性が安心して働けるためには必要」と述べた。

その上で、「当社がメインとする企業間物流では、荷物が重く大きくなりがちだ。重く大きい荷物は、身体的な負担が大きく、事故も起きやすい。荷主の方には、もう少し軽く、取り扱いやすいものしていただくなど、女性や若い人の目線で、配慮していただくことで負担が減り、安全性も高まる。最後に、2027年度に予定されている大型のオートマ限定免許の導入は、すごくありがたいと思う。この制度によって、オートマ限定免許を持つ、若い世代や免許取得費用が心配な人達が、気軽に業界に入るきっかけになると思う」と語った。

<車座の様子>
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■荷主に対して、改善をして欲しい点

また、中野大臣からは、「4月から改正物流法が施行される。また、下請法の改正も行った。いずれも、荷主の対応や取り組みが変わらないと、運送事業者としも難しい部分があると思う。特に、荷主に対して、改善をしてもらいたい点を教えて欲しい」と述べた。

牧田社長は、「我々、トラックドライバーは、最大で1日15時間しか働けない。しっかりと守られた環境で働いているが、南九州からフェリーを使って関西まで荷を積んだ車を移動して、関西から関西、中部地区には、なんら問題なく、その時間帯でできる。だが、それから関東までの運送が厳しくなっている。関東まで運ぶと運送だけで8時間、それから何カ所かに荷下ろしに回る。その中で、商習慣というか、もうちょっと考え直してほしい点がたくさんある。フォークリフトとお弁当を渡されて、『降ろしてくれ』と。慣れないフォークリフトに、慣れない場所で乗って、非常に危ない苦労をさせてるところがたくさんある。15時間以内に終わらなければいけないから、大変になっている。とにかく商習慣の見直しを、しっかりしていただきたい」と語った。

また、「もう一点は、15時間稼働後は、9時間以上休息をとらなければいけないとなっているが、休息をする場所がない。特に、京浜地区での仕事は15時間、ギリギリで終わる。すると路上に車を止めて休むしかない。そうすると、トイレとか身近な設備がないところで休息する。そういう環境のところに、人が集まってくれるか?できることなら、立派なトラックステーションを作っていただき、トイレ、シャワー、これは有料でも構わないので、それをぜひ、やっていただきたい」と述べた。

ボルテックス セイグンのドライバーからは、「当社では、ドライバーからの要望を聞いて、常に物流の効率化について、会社と荷主とで話し合いをしている。例えば、納品の予約システムを導入して、荷待ち時間の改善をした。しかし、予約システムを導入しても、1時間近く待機することがある。また、荷主から時間指定を受けた時、時間通りに到着するために早めに向かうが、周辺に待機場所が少なく、少し離れたPAで待機せざる得ない状況もある。待機場所の整備、計画的な輸送体制を整えていただきたい」と語った。

そのほか、石破総理から全日本トラック協会の坂本会長に対して、「どうしたら賃上げができるのか」問いかけがあり、坂本会長は「賃上げの原資は荷主しか作れない」と述べ、価格転嫁、取引適正化への支援を求めた。

最後に石破総理は、「これは、演説していても仕方がない。実際に、ドライバーの皆様方が実感できる成果が得られますように、今後とも政府として、物流の常識を根本から変えていくための施策に迅速に取り組んでいく。業界におかれまして、果敢な価格交渉、そして確実な賃上げを勝ち取りますように、荷主の方々に私どもも働きかけますが、どうぞよろしくお願いします。どうぞ、安全な運行をなさっていただきますよう、お願い申し上げます」と車座を締めくくった。

トラックドライバー等との車座(動画)

全ト協/坂本会長「賃上げの原資は荷主しか作れない」、石破総理に取引適正化の支援要望

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