トラック最前線/日本トレクス 高崎文弘社長に聞く「2024年問題」解決への取り組み

2024年07月10日 14:53 / トラック最前線

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「2024年問題」を契機に大きく環境が変化しつつある物流業界。特にドライバーの時間外労働の上限規制は運行形態の変化も促し、求められる車両・車体も変わりつつある。そのような中で、注目されるのがトレーラのトップメーカーであり、ダブル連結トラックやスワップボデーなど、次世代商品も幅広く展開している日本トレクスだ。同社は現在の市場をどのように捉え、また今後に向けて取り組んでいくのか、高崎文弘社長と梶ヶ谷剛マーケティング部部長にお聞きした。(取材日:6月12日)

<ジャパントラックショー2024に参考出品された冷凍ダブル連結トラック>
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注目を集めた次世代ダブル連結トラック

ーー 日本トレクスさんは、今春のジャパントラックショーでスワップ冷凍バンボデーと冷凍フルトレーラを組み合わせた、冷凍ダブル連結トラックのコンセプトモデルを展示し、注目を集めました。来場者の反応はいかがでしたか。

梶ヶ谷 たくさんの方にご来場をいただき、とても忙しかったです。

高崎 2年前のトラックショーに、試作のスワップ冷凍バンボデーを出展させていただきました。我々の予想以上に、多くのお客様から反響をいただき、大きな手ごたえを感じることができました。その後も開発を進め、今回出展したコンセプトモデルにも、様々な工夫をこらしています。

ーー 進化を続けているわけですね。

高崎 まずスワップボデーは脱着してボデーだけで荷役作業を行うことができるので、荷物の積み降ろしなどで、様々な人や機器で扱う機会が増えると思います。そうすると、ボデーを傷つけたりするかもしれない。それをできるだけ防ぐために、外板をFRPにしました。
内装も丈夫さを第一とし、荷物によっては臭いがついたりします。そこで水洗いしやすく、衛生面も配慮して、ステンレスを採用しました。

実は、社内では反対意見も出ました。「この仕様だと重量が増えて積載量が減るし、価格もアップする。それで果たして売れるのか?」という内容でした。お客様によって様々な使い方があるから、「丈夫で、よく冷えるモデルを作っていこうよ」ということになり、今回の展示に結び付きました。

ーー 高い技術力のある日本トレクスさんならではの提案と言えますね。ただ、スワップボデーのダブル連結トラックは、まだ認可されていないので、現時点では公道を走れないのが残念です。

高崎 今後認可していただきたいという思いはあります。現段階で運用することはできませんが、「こういう使い方もありますよ」という提案商品として出展をしてみたのです。

<(左)高崎文弘社長、(右)マーケティング部梶ヶ谷剛部長>
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これからのダブル連結トラック、スワップボデー

ーー さて、この4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示が適用されました。日本トレクスさんでは、2024年問題への対応策の一つとして、スワップボデーやダブル連結トラックも挙げていますが、実際の市場の動きはいかがですか。

高崎 4月以降、物流会社さんは2024年問題を「喫緊の課題」としての対応を迫られています。そのような中の選択肢のひとつとして、中継輸送がクローズアップされてきていると感じています。

梶ヶ谷 特に最近、中継輸送という言葉をよく耳にするようになりました。展示会などでも、今まではほとんど話題に上がらなかったのですが、急にクローズアップされ、この話題が今後の焦点になっていくと思います。

高崎 中継輸送には何が適しているのか。もちろんスワップボデーやダブル連結トラックの需要も増えていますが、それが2024年問題で広範囲の対策になるかと言うと、まだまだ解決すべき課題が多い製品と考えています。

ーー ダブル連結トラックやスワップボデーへの注目度は高いですが、主力にするのは難しい?

高崎 お客さん、あるいは荷主さんの条件に合わせて選択していただければと思っています。ただ、ダブル連結トラックやスワップボデーが広く普及するためには、使用する場所や走行できる道路に制限があるため、ハードルが高いと感じています。

ーー その理由は?

高崎 ダブル連結トラックは、1人で2台分を運べることが最大のメリットです。しかし、繰り返しになりますが、走行できる道路が限られてしまうのです。

高速道路を降りた後の荷物の届け先、あるいは自社拠点まで行くまでの道路の通行許可がなかなか取れない。通行できるかどうかを車両を導入する前に道路管理者に問い合わせするのですが、問題点の指摘があった場合は、通行できる別ルートを探すことになり、長い時間がかかってやっと許可が下りたということも聞いております。許可が下りてからようやく、じゃあ(車両を)作ろうかとなり、それからドライバーさんの確保といった状況なのです。

整備工場までの回送ルートも通行許可を取らないといけない。その整備工場もダブル連結トラックの車両サイズに対応できる広い場所を確保しているかがポイントになります。

大手の物流会社さんは、土地も持っているし整備工場もある。しかしながら、大多数の物流会社さんの場合では、通行経路の問題、ドライバーさんの問題、ハンドリングのスペースの問題、整備工場の問題等、いろいろ想像することができ、そう簡単に導入できないのではと懸念しております。

ーー ドライバーの数は少なくて済みますが、運転の負担が大きいのも課題ですね。

高崎 4時間連続運転したら、30分休憩しないといけない。ですが休憩のためのサービスエリアは常に混雑をしています。ダブル連結トラックが停められない。これだけ大きいとスペースがない。駐車環境の改善も推進していただきたいと考えております。

梶ヶ谷 専用マスは用意してるけど、他のトラックに取られていることも多い。

高崎 (ドライバーさんは)かなり苦労されてますね。普通のトラックも休憩しなくてはいけないじゃないですか。駐車スペースがないなどの理由で、4時間までは連続運転をしていいとなっていますが、それを超えたらもう違反です。違反を続けると行政処分の対象になると聞いております。そのような問題もクリアしていかないと、普及が進まないと感じています。

<高崎文弘社長>
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ーー スワップボデーはどうでしょうか?

高崎 東京と大阪から荷物を持ってきて、中間の浜松あたりで入れ替える。という使い方がスワップボデーの使い方、中継輸送のやり方だと思いますが、その場合、同じ物流会社さんだったら、やりやすいと思います。

ところが、複数の物流会社さん同士で行う場合、着いたときに万が一物が足らないとか壊れてるとかいうような問題が出てきたときに、「どちらが責任を取るの」という問題が出てくるんじゃないかと思います。

ですから、違う物流会社さん同士でスワップボデーを運用するということは、少しハードルが高いのではと想像しています。荷主さん側からしても、そこは不安なところが多いような気がします。違う会社どうしのスワップボデーのやり取りっていうのは、まだそこまで多くないと思われます。

梶ヶ谷 現在納入をさせていただいてる物流会社さんも、自社の荷物を自社で運ぶというところですので、共同輸送のような形態は、検討を進めている段階だと思います。

<スワップボデー>
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高崎 責任範囲が分かりにくいというのがひとつ。もうひとつは施設の構造もあります。スワップボデーは支持脚をセットしてトラックシャーシを脱着しますが、そのためにはトラックの倍以上の長さのスペースが必要です。全長12mのトラックの場合で、30mのスペースが必要ですが、この場所がなかなか取れないと聞いております。

あと、施設の前のホームは大抵、水はけを良くするために傾斜がついています。そうすると、ボデーにトラックシャーシを挿入するときに、シャーシとの連結部分がボデーに当たる可能性があります。ですから傾斜地では操作しにくいということがありますね。

ーー スワップボデーを前提とした物流施設でないと、かえって運用しにくい。

高崎 スワップボデーはそのような問題点もあって、伸び悩んでいる感じがします。

梶ヶ谷 ダブル連結トラックやスワップボデーは、特にメディアなどではインパクトがあって注目されるのですが、実際の運行となると、やはりいろんな課題があります。(ダブル連結トラックやスワップボデーが)もっともっと世の中に出まわって2024年問題の解決策になればいいなと考えており、私どもがお手伝いできることに精一杯取り組んでおります。

<マーケティング部 梶ヶ谷 剛部長>
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現実的な答えはトレーラの活用

ーー なるほど。では2024年問題を解決するものとして、期待されるものは?

梶ヶ谷 24年問題に対して、ダブル連結トラックやスワップボデーも解決策のひとつですが、既存のセミトレーラが一番現実的な答えじゃないかな、と考えています。

セミトレーラは、けん引免許が必要とか、走行する際には通行許可がいるというデメリットは確かにあります。ですが既に世の中に流通していますし、切り離しもできるので中継輸送や荷役作業の分離を行うことも可能なのです。

ーー セミトレーラなら、今までもずっと使われてきたから、施設側を変える必要もありませんね。

高崎 クローズアップされているのは中継輸送。中継輸送をどのように運用するか、ほとんどの物流会社さんもそうですけど、荷主さん側も考えていると思います。

ダブル連結トラック、スワップボデーもありですが、セミトレーラを活用するのが、一番効率が良いのではないかと思ってます。

ーー ただ、トレーラは街中で取り回し難い印象があります。

高崎 そこで「トラックと同じような荷台寸法の小型トレーラが欲しい」という話も最近増えています。ボデーの長さは約10m、1軸で積載量は11トン位。ほぼトラックに近い荷台になる。

ーー これなら狭い場所でも入れますね。

高崎 街中にある物流施設などには、大きなトレーラが入りにくい。2軸に比べて1軸の小型トレーラならば、狭い場所でも入って集荷、あるいは配送までできる可能性が高く、切り離しての運用もできるので、中継輸送にも適しています。

ーー コスト面でも導入しやすい?

高崎 一般論ですが、トラクターヘッドを別にすれば、トラック1台よりもトレーラの方が費用は少ない。だからトラクター+トレーラとトラックを使い分けされてるお客様の中には、トラックをやめてトラクター+トレーラに集約しようかという方もおられます。

トレーラを選びやすい環境を整備

ーー 将来への対応も含め、中継輸送によって、トレーラの良さが改めて見直されることになりそうですね。

高崎 そうですね。今後の普及に弾みをつけるべく、取り組みを始めました。そのひとつがトレーラの仕様・規格の統一化です。

海上コンテナを想像していただければ分かりやすいのですが、海上コンテナは20フィート、40フィートと寸法が決まっています。そのため、どこに行っても20フィート、40フィートで話が通じます。

一方でトレーラは、短い仕様から長い仕様まで、様々な種類があります。そこで発想の転換をおこない、この規格をある程度統一化してやれば、どこにいってもトレーラが来たら、どれだけ何を積めると簡単に想像できますし、荷主さん側も大きなメリットを感じられるのではないでしょうか。

もうひとつは納期の短縮化です。現在、当社は通常のトレーラは納品まで1年ぐらいかかっていますが、納期を早めることにより、お客様にメリットを届けたいと考えています。

そのような考え方から、「TQO(トレクスクイックオーダー)」を始めました。一番台数が多い3軸のウイングタイプのトレーラで、ある程度のオプションは選択できますが、基本的な寸法、仕様は決まっているものを用意しました。

<TQO(トレクスクイックオーダー)>
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ーー 物流事業者さんも選びやすくなりそうですね。

高崎 今まではボデーの長さや積載量、車軸の数、さらにホイールベースはどうするかなど、注文住宅を建てるような打ち合わせしていました。これをワンメイクでやろうと考え、オプションを追加していけば、すぐ図面が出来上がるというシステムを作りました。設計の手をかけずに、そのまま生産に入れますし、工程も優先できるので、これを広めていきたいと考えています。
お客さんから注文をいただき、設計や、極端に言えば営業が行かなくても話ができるので、そこでもリードタイムが短縮できます。3~4か月で納品できるよう取り組んでいるところです。新しい工場も作っており、今までの倍ぐらいの生産量にしたいと思ってます。

今後の物流課題をトレーラで解決したい

ーー 「2024年問題」をきっかけに、物流の環境はこれから大きく変わっていくことが予想されますが、今後の市場動向をどのように見ていますか。

高崎 足元の状況ではトラック系が順調に推移しているのに対して、トレーラの需要は昨年4月以降下降気味です。対前年比で1割ぐらいずっと減っている状況です。年度が替わり新年度に入っても続いています。これは私どもだけではなくて、全国の登録台数を見ても、市場全体でトラック系は伸びているのですが、トレーラだけは落ちこみが続いています。

明るい兆しとしては、2024年問題への対策の一つとして、この下期ぐらいからトレーラの需要が伸びてくるんじゃないかと予想しています。トレーラのメリットを理解していただいた物流会社さんが、検討・導入をしてくださると考えています。

そのような動きが見られるますので、我々も対応しようと準備しており、新しい工場の稼働も来年1月ぐらいから予定しています。

ーー トレーラ普及拡大に向けた本格的な動きが期待できそうですね。

高崎 2030年には34~35%の荷物が運べなくなるとも言われています。その対策として、我々としてはトレーラがいいんじゃないでしょうかという提案をしていますが、そのための取り組みとして、トラックからトレーラへステップアップしたいドライバーを支援するドライビングスクールを作りました。

また、通行許可申請のお手伝いも始めています。専門の行政書士さんと提携して、通行許可の問い合わせに対してアドバイスできる体制も取っています。

ハードだけではなくソフトもアピールしようと考えていますので、おそらく年明け頃から、トレーラが本格的に動きだすのではないかなと期待しています。

ーー トレーラを活用しやすくなる環境が整いつつある、といえますね。では、その先、2030年に向けてはいかがでしょうか

高崎 現状では、当社および関連会社でトレーラは大体年間4000台ぐらい作っていますが、それを倍にする計画を立てています。新工場の建設と、既存の工場の再構築により、リードタイムも半分に縮めたいと考えています。

また自社のサービス工場を、東京、大阪で計画しています。やはりトレーラを増やすのであれば、自前の工場が欲しいということで、候補地を検討しているところです。

ーー トレーラへの移行が急速に進みそうですね。

高崎 日本トレクスとしては、トレーラで物流の課題を解決したい。

決してダブル連結トラック、スワップボデーを否定しているわけではなくて、現実的な方策のひとつとして、トレーラのほうがいいのではないかという、ひとつの提案を行っていきたいと考えています。

トレーラのメリット、良さをアピールしながら、2024年問題、さらには2050年のカーボンニュートラルに向けて、トレーラがその対策になるんじゃないかという想いを伝えていきたいと思っています。
(取材・執筆 鞍智誉章)

■高崎文弘氏略歴
1957年6月2日生まれ。国立佐世保工業高専 機械工学科卒。1978年日本トレクス入社、営業本部、管理本部を経て2020年取締役執行役員生産本部本部長、21年取締役常務執行役員、22年4月より現職

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